2017年9月19日火曜日

長澤まさみ「散歩する侵略者」(2017)

黒沢清監督の「散歩する侵略者」を見てきた。自分、映画を見るために劇場に足を運ぶのがだいたい1年に1回か2回なので、かなり決心して出かけた。

都心からだいぶ離れたイオンシネマで見てきた。自分、混んでる会場で映画を観たくないので、そんな場所を選ぶ。
月曜日だったので1,100円だった。8時35分からの回だったのだが、客が自分を含めて5人だった。

これ、企画とストーリーを聞いた段階で、1950年代アメリカで流行ったような、ごく普通の市民なりすまし型侵略者SFだって知った。アメリカ市民は素知らぬ顔で隣人としてふるまい既存の価値観を破壊するコミュニストやホモセクシャルを恐れていた。ロバート・A・ハインラインの「パペット・マスター」がこんなタイプの他人を乗っ取る異星人SF。

宇宙人に体を乗っ取られた恒松祐里の一家惨殺の現場で始まる。予告編でも登場する田んぼ道でダンプが横転するアレ。何かがひたひたと進行中…というサイコスリラー感はあまりしない。
恒松さんってガッキー主演「くちびるに歌を」に出てた子なんだな。どんな顔してたかぜんぜん思い出せないけど。

この作品ではアクションシーンに挑戦。警察官を襲い射殺。マシンガンを奪い躊躇なく皆殺しにするような女子高生。比類出来るのはイスラムテロリストぐらいに凶悪。ま、侵略者だからな。
夫・松田龍平の非常識行動に困惑して怒る長澤まさみのシーンが続く。乗っ取ってる宇宙人側が地球人というものをまだ何も理解していない段階なので、初めて異文明からやってきた人のように非常識極まりない天然迷惑行動。「ちょ、ちょ、ちょ!」っていうツッコミコントシーンの連続。「転んじゃった」「犬にかまれた」「…。」

予想していた以上にコント・落語っぽさ全開の面白マンガSFだった。シュールな小劇団SFコント芝居を見ているように感じた。
とくに児嶋刑事と、仕事の概念を奪われた光石社長のふざけっぷりは誰が見てもコントに見えたはず。アラレちゃんかよ!ここでだいぶくだらなさを感じてしまった。
見ている最中はずっと藤子F不二雄SF作品を読んでいるような感覚だった。遠い昔にどこかですでに読んだような感覚。

期待していたほどに新しさも新鮮さもヒネリも感じなかった。予想外な展開とは言えない。どちらかというと予想の範囲内の展開。恒松、高杉ペアの宇宙人の行動と思考は我々人類の予想を超えない。フツーにテロリスト。

クルマ移動のシーンで窓の外に映る景色の合成っぽい違和感、東出神父の愛の説法シーンで松田のバックに映る子供たちの顔のボケ方に、黒沢作品らしさを感じた。爆破シーンとか、あえてリアリティを持たせていないように思える。
俺の長澤まさみが宇宙人松田のボケに対してずっと困惑しイライラしている。予想していた以上に高カロリーで怒ってる。
まさみによれば撮影中は毎日ヘロヘロに疲れていたという。昨年夏の一番暑い時期の撮影、まさみは頑張った。

この映画、とにかく長澤まさみが美人に撮れている。過去のすべての作品と比べてもまさみが圧倒的にイイ女すぎた。
仕事で髪を後ろで縛っている姿も、外出するときの髪をほどいた姿も、部屋でエプロン姿も、パジャマ姿の後ろ姿のお尻も、クルマを運転している姿も、もうすべてのシーンで史上空前に美しい。「モテキ」「海街diary」「アイアムアヒーロー」よりもピッタリとハマっていた役だった。

あれだけ怒っていたツンデレーションまさみだったのだが、侵略が開始されると絶望を感じ疲れて諦観。
まさみが素晴らしすぎて見ている間はずっと心が沈んだ。まさみの傍らにいられない自分こそが一番の不幸。夫婦役は見ていて気が狂いそうになる。まさみを愛しすぎていてつらい。

長澤まさみは芸能界入り直後の13歳から女優をしてる。まさみ本人によれば、10代のころは常にずっとプリプリ怒ってイライラして、「もう、いやんなっちゃうな~」と、業界と演技の世界に困惑していた。
長年のまさみウォッチャーの自分は、この映画のまさみを見て、そんなことを思い出した。

この映画のインタビューでも「大手に所属してるから恵まれているって妬まれバカにされてた…」と憤ってたことを明かした。いつまでもクヨクヨ悩むタイプだというまさみは、バカにしたやつらに対してきっと今も怒ってる。
病院のパニックシーンは「アイアムアヒーロー」を思い起こさせた。けど、町にたった3人しか宇宙人がいないのに、あれだけたくさんの人の概念を奪っていたんだな。

まさみの運転する黄色いホンダ車が静岡ナンバーだったのと、ラストシーンで松田が差し出したものがみかんだったのは、まさみが静岡県人であることのアピールか?w

演説シーンでの長谷川博己の演技が印象深い。何を言っても響かない市民への諦め。安倍政権のことも表現してる?長谷川演じる雑誌記者のキャラは変化球だったかもしれない。
地球を侵略しに来た宇宙人が警官を殺した件で怒っていて、何をいまさら…って思った。だが、もう人類滅んでもよくね?と宇宙人側に就いているようにも見える。

厚労省の役人?だという笹野さんを見て、こんな年寄りは大臣クラスでないといないのでは?と思った。でも、マシンガンをぶっぱなすような対テロ特殊部隊を率いてるので、普通の人事じゃないんだろう。部下たちが中国マフィアのチンピラっぽかったw

C級コント芝居SF映画っぽかったけど、十分に面白かった。まさみの演技は称賛に値する。まさみの過去作の中で自分は一番感心した。
だが、こんなヘンテコ映画では映画賞レースとは無縁だろうな。

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