2011年に亡くなった作家・北 杜夫の代表的な旅行エッセイ「どくとるマンボウ航海記」がそこにあったので手にとって読み出した。
この作家は東北大医学部卒の精神科医なのだが、大学に残っても研究に精を出すわけでもなく文筆に才能を発揮してしまった人。
留学でもして世界を見て回ろうかと思って試験を受けるも落第、なりゆきで水産庁の600トンのマグロ漁船(漁業調査船)に船医として乗り込んで1958年から翌年にかけて5ヶ月間、灼熱のインド洋から凍れるハンブルク、港から港へと世界を旅して回った。当時はまだほとんどの日本人にとって海外旅行はとても難しかった時代。まったく船酔いにもならず、楽しい世界旅行をした旅行記。
シンガポール、エジプト、ドイツ、オランダ、ベルギー、フランスの街の人々の様子を、いきいきとした文章でスケッチして残した、1950年代の各地のことを知る上でとても重要な本。
スエズ動乱とナセルの時代のエジプトや、50年代のパリの描写が興味深かった。この人は医者なのに本ばかり読んでたらしく文章がうまいのだが、海外の文豪やら、旅行記、航海記からささっと引用して話を脱線させる。
真面目に話していても冗談を入れてくるので、本当なのかウソなのか煙に巻かれる。真実は読んでいてもわからない。カンジンなことは書かずに、くだらないことだけを書くという方針。見習いたい。
この人は医者でエリートなので各地で留学している友人と会ったりもしているのだが、わりと現地の怪しい酒場や歓楽街にも潜入してレポしている。自分は旅して回っていても夜の酒場へ繰り出したりしないので、こういうことはマネできない。
この人は博識で「おっ?!」っていうことをいろいろと教えてくれた。大正15年に良栄丸という、銚子沖でマグロ漁をしていた船が嵐と機関故障により、乗組員12名が白骨ミイラ化して11ヶ月後にシアトルに漂着。遺書と日記から詳細がわかったという有名な海難事故があったことを知った。
船長の遺書によると「息子をぜったいに漁師にしてはいけない」んだそうだ。
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「どくとるマンボウ小辞典」「どくとるマンボウ青春記」とかを以前読みました。
北杜夫というと面白い文章を書く「躁鬱」のひと・・・というイメージ。
親父(斎藤茂吉)や兄貴が精神科医だったっていうのに、皮肉なものですね。
自分も少し「鬱」なんじゃないかと心配になったこともあったけど
この人の逸話をみたら、こっちのはただのヘタレであったと安心できるほど深刻だったらしい。
それでもって、「躁」のほうもすごかったらしいですね。
「躁」と「鬱」が不定期に入れ替わる・・・小説書いてたときはどっちなんでしょう。
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躁鬱って知らなかった。でも、躁ってことなら文章でちょっと思い当たるかも。
自分の友人はよく欠勤するし1日18時間ぐらい寝てるのでおかしいと思っていたら鬱の治療を受けていた。鬱って意外に身近に存在する。