2014年7月15日火曜日

黒岩重吾 「ワカタケル大王」(2003)

黒岩重吾の本を初めて手に取った。以前、古代史に興味を持っていたのでこの人の名前は視界に入ってきてはいた。友人が「ワカタケル大王」(文春文庫)を持っていたので拝借して読んだ。黒岩重吾、死の前年の大作。

埼玉県行田市にあるさきたま古墳群へは過去3回ほど行ったことがある。公園内に博物館があるのだが、初めて行ったとき、なにげにふらっと入ってみた。そこにはとんでもないものが展示してあった!「国宝金錯銘鉄剣」だ。

1968年にさきたま古墳群の稲荷山古墳から出土した鉄剣に金象嵌(きんぞうがん)で115文字が書かれていることが判明して大騒ぎになったやつ。古代史にちょっとでも関心があれば誰でも知ってるあの国宝!そんな教科書にも載ってるような超有名なものが、こんな誰も来ていない場所にあるわけないじゃん、って思ってた。レプリカか何かだろうって思ってた。マジで本物だった。日本史オンチの自分でも知ってたものがあった。

そこに「獲加多支鹵大王 ワカタケル大王」という文字が書いてあったのだ。5世紀の文字が出現!卑弥呼の時代から200年以上経ってる時代。古代史ロマン!これ以後、ずいぶんといろいろと古代史の本をかたっぱしから読んだ時期が自分にはあった。

ま、記紀に書いてある雄略天皇(大泊瀬幼武)は実在したかどうかはかなり怪しい。って自分は思ってる。雄略、天皇家史上最悪の暴虐の限りをつくしたとされる人物。この本では「倭の五王」「武」という前提で書かれている。日本史の空白時代。

なにせ、埴輪のような姿をした人たちの時代。現代人とは思考がまったく違うはず。まだ儒教も仏教も入ってきていない時代。ヤマト王権による国内統一戦争の最中。邪魔な存在は虫のように殺し、野獣のように男女が媾合(まぐわ)う。この変の黒岩重吾の描写はかなり残酷で……。

記紀にわずかしか書かれていない人物をよくここまで壮大に膨らまして小説にした…と感心する。血で血を洗う大王位の争い。

死屍累々。王位継承有力者、市辺押磐皇子を狩りに誘い出してだまし討ち。ついでに弟の御馬皇子も殺し、眉輪王に安康大王を殺させて、坂合黒彦皇子も自殺させ、葛城も吉備も一族皆殺し。ほしいものはすべて手に入れるワカタケル……、この辺の細部は黒岩の創作だと思われる。
先見の明があった大王ってことになってるけど、どこにも共感するところがない。ま、記紀も史実でなく8世に創作されたフィクションっぽいけど。

巻末に参考文献として門脇禎二、森浩一、直木孝次郎、藤間生大といった大先生方の著作がずらっと並んでいた。かつて、自分が図書館で借りて読んでいた名前ばかり。ヤマト王権と河内、葛城、吉備、平群、そして朝鮮半島情勢。考古学の知見をからめて組み立てた歴史ロマン。たぶん、5世紀はだいたいこんな感じだったんだろうと思う。

応神・仁徳と葛城の血を引く呪われた大王家の末路、そして越から男大迹王がヤマトに入る。

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