内田百閒を初めて読んでみた。この人は頑固わがまま無愛想でありながら多くの作家から慕われる。
新潮文庫版の表紙は芥川龍之介によるイラスト。なで肩過ぎるだろう。頭が大きかったらしい。
岡山の造り酒屋の息子として生まれ、六高から東大独文科へ進んだ秀才。陸軍士官学校、法政大学でドイツ語の教師をする傍らの文筆業。
驚いたことがふたつある。
昭和8年に出版されたこの随筆集のほとんどが借金苦がテーマ。
方々に借金を申し込み、やがてアテがなくなると高利貸しにまで手を出す。読んでいて本当に辛い。法政大学でドイツ語教師の仕事を持ちながらどうしてそこまでお金に困る?
借金を返すために無理矢理何かを書こうとする。細かく借金のことばかり書かれている。街金からお金を借りるようにはなりたくないものだ。利子を払うために借金して回るとか絶望すぎ。借金取りをテーマにした短い小説のようなものが真ん中あたりにある。途中で読むのを止めたくなった。
驚いたことのもうひとつ
書かれていることのほとんどが本当にどうでもいい話ばかりだ!
師である夏目漱石の思い出についてなんかほんの少ししかない!あとは士官学校教師時代の思い出。髭をそり落として学生たちの前に現れたときのリアクションとか、近所でコレラ患者が出た話とか、宮城道雄とのこととか、軍艦の進水式とか書かれている。
軽妙洒脱、香り高い美酒の滋味妙味たっぷり……などと表現される内田百間の随筆だが、それは言いすぎだと感じた。この人の性格を現すような何も過不足ない文体にはそれほど魅力を感じなかった。まだ自分にはこの人の随筆の魅力はわからないのかもしれない。なによりも「いいネタ」がないなと感じた。
かろうじて同僚の森田草平とのやりとりは面白いと思った。「ほら穴に泥水が吸い込まれるような」でかい鼾かくヤツは本当に迷惑。
ドイツ大使館へ用事があって行くのだが、ドイツ語教師とバレたくない、ドイツ語なんて使うのめんどくさい、と通訳をたのむ箇所も面白かった。
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内田百閒というと怪奇小説の分野でも有名で「冥途」とか映画「ツィゴイネルワイゼン」の原作である「サラサーテの盤」などが思い浮かびます。
エッセイ集でわたしが好きなのに「御馳走帖」というひたすら食べ物のことしか書いてないのがあります。自宅で夕食を美味しく食べるために、昼食以後は外出して人に薦められても絶対何も口にしないとか。戦時中の不自由な時代にただ頭に浮かぶ御馳走の名前を延々列記するのですが、その中に「すうどん」とか「南京豆」とかがあったりして、物悲しいけど笑えます。
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怪奇小説?あぁ、だから借金取りをテーマにした短編にも怖さと凄みを感じたのかぁ。貧しくとも食にこだわってることはこの本でも感じました。