2011年7月13日水曜日

MUSICA 2008年5月号

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今まで数年かけて長々とYUIの過去のインタビューなどを掘り下げてきたが、その中でもこのインタビュー記事はとりわけ重要。
先週、神保町へ立ち寄った際にこの雑誌を買ってきた。MUSICA 2008年5月号 「I LOVED YESTERDAY」期に出版されたインタビューの中で最も注目するべき、YUIのすべてのインタビューの中でも特に重要な1冊。

この雑誌は大きな書店じゃないと取り扱ってないのでこの号を買い逃していていて、そのうち出会えるだろうと思っていたものの、3年経ってもなかなか出会えずに、ついに定価より高かったけど買ってしまった。(定価600円を700円で発見)

先月の香港コンサートは日本の音楽ファンにも強いインパクトを与えたようだ。ある番組では「若者の間でカリスマ的人気」などと紹介されていた。
まだまだ世間のYUIに関する認識は甘い。「ちょっと可愛いシンガーソングライター」などという認識では多くを見誤る。
音楽ライターに中でも昔からYUIを高く評価し、YUIを聴き込んでいると思われるYUI大好き宇野維正によるインタビューを読み返してみたい。

2004年末にインディーズからリリースされた『It's happy line/I know』の卓越したメロディと真摯な歌声の強さにすっかリ度肝を抜かれ、"feel my soul"でメジャーデビューした後、しばらく楽曲のリリースがある度にYUIにインタヴューをしてきた。
当時のYUIはまだ東京に出てきたばかりで、頑ななまでに「自分」と「音楽」とに向き合いながら1曲1曲に全身全霊をかけることだけに集中していて、まだ自分の音楽をこうしたインタヴューの場で言葉にすることにあまり自覚的ではなかった。でも、久々に取材の場で会ったYUIは、その音楽に対する純粋で真摯な姿勢はそのままに、丁寧に言葉を選んで、こちらがちょっと違う解釈をしたらそれを正しながら、自分の創作の核の部分についてじっくりと語ってくれた。
◆インタヴューするのは2年以上ぶりですね。
 
「あっ、もうそんなに経つんですね。早い、時間が経つのが(笑)。」

◆もちろんそのあいだもずっと作品を聴かせてもらってきたし、ライヴでも観てきましたけど、人気もそうだし、ミュージシャンとしての成長ぶりも、凄いことになっていて。
 
「そうですか?(笑)」

◆今回のアルバム「I LOVED YESTERDAY」 は、YUIさんがミュージシャンとして新しい段階に入ったことを告げる素晴らしい作品だと思いました。本当に、何度聴いても飽きない。
 
「ありがとうございます」

◆今回はMUSICA初登場ということで、この「I LOVED YESTERDAY」というアルバム、そしてミュージシャンYUIについていろんな側面から訊いていきたいと思ってます。まずは今回のアルバムなんですが、これは相当自分でも手応えのあった作品なんじゃないですか?
 
「そうですね。凄く納得のいく作品ができたなっていう気持ちですね。完成からちょっと時間が経って、今はいい作品になってよかったなって思いますね。うん」

◆とにかく音楽的に凄くまとまりのある作品だと思ったんですよ。いろんなことに手を出すんじやなくて、YUIさんの核の部分を1枚のアルバムに込めた作品だなって思いました。
 
「そうですね。アコースティックな"Namidairo"とか、凄くポップな"Laugh away"とか、エレキギターをかき鳴らして作った"My Generation"とか、いろんなタイプの曲が入ってはいるんですけど、どこからどう聴いても全部自分のサウンドになったな、っていうのは自分でも思いますね」

◆これまで2枚アルバムを作ってきて、3枚目の今作で自分が一番活きるサウンドが見つかったっていう実感があったのかなって、ちょっとそんなことを聴きながら思ったんですけど。
 
「ああ。でも、1枚目の時からそこの部分はそんなにブレてなくて。いつもその時に感じたことっていうのが、そのまま音にもなってると思うので、アルバムにはその時その時の自分が入ってると思うんですけど。今回のアルバムではやっぱり、自分にとって凄く大きな意味があったツアーや武道館でのライヴを経験したことによって、もっともっとロックな曲を書いてみたいと思ったのはありますね。もちろん、アコースティックな曲もやっぱり凄く好きなので、そういう曲もたくさん書きましたけど。だから、1曲1曲いろんな色を、今の自分の中から正直に出せたらと思ってますけど」

◆前作の『CANT' BUY MY LOVE』は、YUIさんの中で音楽的にもいろんな挑戦のあったアルバムだと思ったんですよ。
 
「はい、そうですね」

◆で、前作と比べて今回は、ライヴで自分のリスナーと直に接することによって自信がついたからかもしれないですけど、挑戦というより、自分の中にあるものを気持ちよく吐き出していったようなアルバムという感じがしたんです。
 
「うん。『気持ちよく』というところは凄くその通りだと思いますね。それと、今言ってくれたように、曲を作ってても聴いてくれてる人の顔が浮かぶようになったんですね。それは実感としてあります。やっぱりライヴやったり、あと手紙やメールなどでメッセージをいただいたりすることによって、前よりも近くなったような感覚はありますね」

◆ただ、今や膨大な数のリスナーがいるわけじやないですか。そのことが曲を作る上で、ブレッシヤーになったり、混乱したりってことはないですか?
 
「ないです。みんなが自分に期待をしてくれてるのであれば(笑)、それに応えていきたいし、自分の中で納得のいくことだけをしたいなって思うだけですね。でもそれだけじゃなくて、今、本当に音楽やってて楽しい。いつも『音楽って楽しい!』ってことを凄く感じながらやっているので、自分の中ではいろんなことにいい意味で上手くバランスがとれてると思います」

◆「音楽って楽しい!」って思えるのは素晴らしいですけど、音楽をやるとひと言で言っても、曲を書いてる時、レコーディングしてる時、ライヴで歌ってる時、あるいはテレビで歌ってる時と、いろんな段階がありますけど、今YUIさんが音楽の現場にいて一番エンジョイできるのはどれですか?
 
「う一ん、全部が全部に違う要素があって、でも共通してるところもあるので………その時その時をエンジョイできるようにしてるんですけれども……でもやっぱり、一つひとつ曲を作っていく時っていうのは、まったく新しいことをすることなので特別な時間ではありますね。すべての種になる部分というか……」

◆生みの苦しみっていうのは、あんまりない?
 
「ないですね。曲を作ってる時って、単純にギターを弾いてて、『あっ、これいいかもいいかも!』って楽しんで、いろいろ考えながらやっていく感じなんです。で、レコーディングの時は、もう自分の頭の中では見えてるものに、できるだけ近づけていくようにすることだったりする。あとは、そこで浮かんだ新しいアイデアを試したり、たとえばコーラス足してみたりってことを、いろんな人と意見を出し合いながらやっていくことだから。で、そのあとまたマスタリングの段階も楽しくて、『もっとこの音を減らしてみたほうがいいんじやないか?』とか、そういう話し合いをしたり。その過程も作品にとっては凄く重要なことだってわかってきたし、面白いですね。楽しい、現場は(笑)。ライヴの時はまた全然違うけど、それぞれ違う場所で、違う人達を前にして、毎回どういうふうにしたら満足してもらえるかな、ってことを考えるのも楽しいし」

◆凄い、全部を楽しめてるってことですね。じやあ、本当にこれはキツいというか、楽しいんだけれども大変っていうなのはなんですか?
 
「う-ん……あんまり……」

◆でも、曲作りで悩んだり苦労したりしないっていうのは、ソングライターとしてかなり凄いことだと思うんですけど。しかもあんな、メチャクチャいい曲をバンバン書いてるのに。

「多分、他の人にしてみたら〝悩んでる〟に当てはまるような状態になることもあるかもしれないけど、あんまり自分ではそういうふうに感じることがないんですね」

◆今回の『I LOVED YESTERDAY』を聴いて思ったのは、デビューしてから1年くらいの間にいろいろお話しましたけど、その頃のYUIさんのいいところが全然なくなってないなってことなんです。歌に対する純粋な気持ちだったり、メロディに対する直感的なひらめきだったり。「なんでこんな汚れずにいられるんだろう?」って凄く感じて。それもやっぱり、心から楽しんでやれてるからなのかな?

「きっと楽しんでいるからですね。今回の『I LOVED YESTERDAY』のタイトルにも込めたんですけど、ここまでやれてこれた自分の〝過去を愛する〟っていうことも大切なことで。やっぱり今こうやって楽しんで音楽をやっていられる自分を支えてるのは自分の過去であって、その中でたくさんの出会いに恵まれたなって凄く思うんですよね。そのことへの感謝は、この作品に込めたつもりです」

◆直訳すると、〝過去を愛していた〟ですよね?

「はい。〝私は過去を愛していた〟」

◆だからある意味、これまでの自分にひとつ大きなピリオドを打つような作品なのかな、ともちょっと思ったんですね。

「そうですね、はい」

◆この作品が世に出た後は、YUIさんの目の前にはもう現在と未来が広がっているだけみたいな、そういう場所に立とうっていう意志表示にも思えたんですけど、その解釈って間違ってますか?

「そういう意味も込められてます。だからこそこの作品では、今のこの時点から過去を振り返ることだったり、振り返って思い返すことだったりとか、そういうことを込めたんです。たとえば"My Generation"の《はじめから自由よ》っていう気持ちとか、そういうずっと自分が昔から感じていたことを振り返っている部分が多いですね」

◆なるほどね。自分が今回の作品で印象的だったのは、これまでのYUIさんの音楽になかった要素として、"No way"や"OH YEAH"のような、ちょっとユーモアのある、アルバム全体の中でアクセントの存在なんですね。アルバムって、全部の曲が「押し」だと疲れちゃうじゃないですか。いいロックのアルバムって「引き」の曲が重要だと思うんですけど、そういう「引き」になる曲も書くようになったんだなあって思って。それが凄く効いてると思うんですよね。

「嬉しい!No wayは、ちょっとバンクっぽくって、サウンド的にライヴでやったら絶対に盛り上がるだろうなって思いながら詰めていった曲で。サウンド的には凄くガーッて威勢がいいけど、歌詞の部分では凄く自分自身に寄った心情というか、本当にリアルな気持ちを書いてるんです。そういうところが融合したら、面白い曲になるかなって思って」

◆曲の出だしから、《もうイヤんなっちゃうよ》ですもんね(笑)。」

「そう、そのまんまですね(笑)」

◆曲も1分ちょっとだし(笑)
 
「はい(笑)。あと、"OH YEAH"では《キボーの朝だ》みたいに、敢えてカタカナで詞を書いてみたりして、コーラスとかも面白い感じにしたいなと思って。これまでになかったようなカラッとした曲にしたいな、っていうイメージでレコーディングしていったんです。歌詞も、自分の中のコミカルなところを入れてみたいなって思って今回は挑戦しましたね。アルバムの中のそういう曲を褒められて嬉しい(笑)。」

◆昔インタヴューした時に、YUIさんにひとつだけ批判っぽいことを言ったことがあって。
「YUIさんの音楽ってちょっと真面目過ぎると思うんですよ。ロックって本来、もっと不真面目でユーモアのあるものじゃないですか?」って自分が言ったら、YUIさんがとても困った顔をしたのをよく覚えてるんです。

「ありましたね(笑)。」

◆今回のアルバムは、そういうYUIさんの真面目過ぎるところもとてもいい形でちゃんと残りつつ、多分当時より余裕が出てきたからだと思うんですけど、そういうちょっと不真面目でユーモラスな側面も出てて、より人間くさい作品になってるっていうか。ずっとYUIさんの作品を聴いてきたひとりのリスナーとして、とても達成感がある作品だったんですよ。

「……なんか、お父さんみたいですね(笑)。」

◆いやいやいや。

「お父さんみたい」

◆二度言わなくても(笑)。じやあ、サウンド面で心がけたことってありますか?前作と比べると、いろんなものが削ぎ落とされたシンプルなサウンドが印象的なんですけど。

「そうですね。サウンドは凄くシンプルになってきてますね。「ここのここヴォリューム落として、ここは上げちゃおう」っていうような指示とかができるくらい、自分でもわかるようになってきたから。一つひとつ納得しながらできたので満足してますね。いろんなことが自分の中で結びついてきた。歌の部分で『あっ、こういうふうに歌い過ぎると、こういうふうな印象になっちやうんだな』って思ったり、サウンド面でもほんのちっちゃいことで『あっ、こうすればこういうふうになるんだな」って思ったり」

◆で、そういうYUIさんが求めた理想のサウンドが、こういうシンブルなギターとドラムとベースだけの、もう世界中の誰が聴いてもロックンロールとしか言いようのないサウンドっていう。

「そうですね」
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◆ストレートに訊きます。どうしてロックじゃなきゃいけなかったの?
 
「単純に歪んだギターの音を聴くとテンションが上がるんです」

◆もともとYUIさんって「ロックが好きで好きでたまらない!」っていうよりも、とにかく「歌うことが好きでたまらない!」っていう人じゃないですか。
 
「そうですね」

◆だから、このサウンドが自分の歌に合うっていう確信をどこかで手にしたんだろうなって思うんですよ。それはどこだったんだろう?

「やっぱりそれはライヴですね。今は曲を書く時もレコーディングする時も、いつもライヴでやることを想像するようになったので。もちろん、ストリートの感じでひとりでアコースティックでやるのは今でも大好きだし、それが自分の原点であることは絶対に変わらないことですけど、バンドと一緒に演奏する楽しさは他では得がたいものだから、これからもその両方をバランスよくやっていきたいな思うんですよね」

◆あと、今日一番訊きたかったのは、YUIさんからメロディとフレーズが生まれる瞬間、創作の秘密についてなんですよ。きっとYUIさんにとっても言葉にしにくい魔法の部分だと思うので、こうしてインタヴューで面と向かって話すのは難しいと思うんですけど。たとえば"Laugh away"の《ちっぽけな事に悩んじやって》の部分とか、"I will love you"の《いつも恋が走り出したら》の部分とか、YUIさんの曲って本当にメロディと言葉が初めて聴いた瞬間にリスナーの頭の中にドーンと渾然一体となって入ってきて、気がつくとつい口ずさんでるみたいな、そういう魔法のメロディ、魔法のフレーズっていうのが散りばめられてるんですね。で、なんでこんな鮮やかなメロディやフレーズが生まれるんだろうっていうことを、今日はできるだけ解明していきたいんですけど。

「そういうふうに言われるのは嬉しいですね。後でインタヴューを録音してるの聞き返したい(笑)。でも、メロディは普通に頭ん中て考えながらできていくって感じですよ。たとえば"Laugh away"だったら『凄くポップに、春らしく』っていうイメージがあったから、そういうイメージを膨らましていって。最終的にはギターを弾きながら作るんですけど」

◆よくミュージシャンの方は、そういう威力のあるメロディやフレーズが生まれる時って、「天から降ってくる」みたいなことを言うじゃないですか。そういう感覚ですか?
 「いや、私、メロディが『降ってくる』ってことはないですね。ギターでコードを鳴らしながら『思いつく』って感じ。『降ってくる』って言うと、本当に何もないところからワッて出てくるみたいじやないですか?それを待ってたら、いつまでも曲なんてできないと思うんですけど(笑)」

◆でもね、メロディとフレーズの力だけでこんなに「おっ、きたきた!」ってなるアーティストって、本当になかなかいないんですよね。自分のリスナー体験で言っても、出始めの頃のオアシスとかは、新曲が届く度に「おっ!」ってなるようなフレーズがあったんですけれども。
 
「うんうん」

◆そういう、初めて聴くのに、まるて何年も前から聴いてたような錯覚に陥るような凄いメロディが散りばめられてて。本当に「なんなんだろうこれは!」って思っちゃうんですよ。便利な言葉で「天才」とかって言葉がありますけど、そう言われるのは抵抗あるでしょ?
 
「いや、褒め言葉なら是非受け取リますって感じですけど(笑)。でもほんと、いい曲ができた瞬間は自分でも凄くテンションも上がるし、アホみたいに喜んでますけどね。「あ~、いいかもいいかも!」ってなって、周りの人に『聴いて聴いて!』ってなるし、そこで『いいかも』って言われたら、『そう?ヤバイ!』みたいな(笑)、そんな感じでやってますけどね」

◆じゃあ、これまで曲を作ってきて、自分で「あっ、これはキタかも!」っていうのが、意外に普通なものとして受け入れられちやったり、遂に自分ではわりとあっさり作った曲が凄く受けちゃったりっていう、そういうズレってあります?
 
「ああ、そういうズレはあったかもしれない。ライヴでも、自分では凄くテンション上がってたんだけど、客観的に観てる人にとってはそうでもない、みたいなズレってあるじゃないですか。だから、そこは自分なりに学んでいくというか、みんなの反応から学ばされるところはあると思うんですけど」

◆でも、"Love is all"の《いいこと書いてね やっと生まれた歌だから》のところとかは、絶対に間違いないですね。もし自分がミュージシャンで、こんな素晴らしいメロディがふっと出てきたら失神しますね、興奮して。
 
「(笑)。 "Love is all"は、もうこれ2年前くらいの曲なんですけど、確かに「お一っ!」ってなりました。最初から『壮大な曲を書きたい!』って思って書いた曲だったから」

◆でも、歌詞のメッセージは『壮大な曲』っていうのとは、また全然違うところにありますよね。
 
「そうです。メロディは2年前からあったんですけど、今回はもともとメロディがあったものに歌詞を書いていくって曲が多かったんです。"Love is all"みたいな穏やかでゆったりした曲に、敢えてこういう強いメッセージをのせたてみたら面白いかなって思って。自分では、うまく合ったなって思うんですけど」

◆いや、たとえばこのメロディに切ない恋心とかを綴った歌詞をのせたら、それこそ凄いヒットシングルになる可能性のある曲だと思うんですよ。だから正直「もったいないな」って思う反面、このメロディにあの辛辣な歌詞を乗っけちやうところが凄いよなって。本当に参りました。
 
「ありがとうございます」

◆これ、思いっきり音楽評論家とかインタヴュアーに対する批判的な歌ですよね、立場的にドキっとさせられるんですけど、もちろん本心から?
 
「もちろん。そのまんまです」

◆なので、自分のような人間がまさに攻撃の対象なんだろうなって。
 
「……はい」

◆「はい」って!
 
「(笑)。」

◆でも、この歌に込められてるのは、多分ものを作ってる人すべてが持ってる想いだと思うんですよね。《手紙は読むより 書く方が 時間がかかること想い出してみてよ》っていう、まさにその通りで。こういう攻撃性って、これまでそんなに見せてなかったですよね?
 
「でも、『FROM ME TO YOU』の"Blue wind"っていう曲でも実は同じようなことを歌ってて、こういう気持ちは最初から自分の中にずっとあるものなんです。"Love is all"は、それをより具体的に歌詞にしただけで。取材の時に、ちゃんと私の曲を聴いてきてない人がいて、『インタヴューするなら、もうちょっとちゃんと聴いて欲しいな!』っていうその時の感情を、曲の中で爆発させちゃったんですけど」

◆はい。
 
「でも、感情を爆発させるだけじゃなくて、"Love is all"、『愛がすべて』っていう曲にしたかったんです。私は音楽を気持ちを込めて作ってるし、どんな批判的なことでも愛のある言葉だったら心に響くし、ちゃんと聞けると思うんですけど、愛のない言葉って凄く冷たくて悲しいものだなって。それは、自分自身に対しても言い聞かせていることでもあるし」

◆なるほどね。あの、YUIさんって、思わず誰もが口ずさむような「いい曲」を書くにはどうしたらいいのか、その秘密を知ってる人だと思うんですよ。たとえば、あらゆる古今東西の音楽を聴くことも、いい曲を書くためのひとつの方法かもしれない。あるいは、誰も経験したことがないような人生を送ってきて、そういう人生経験が曲に滲み出て、それがいい曲になるっていうこともあるかもしれない。YUIさんがこれだけいい曲を書ける理由って、自分で考えるとなんだと思いますか?
 
「私にとっては…………やっぱり、音楽に本当に救われた、本当に助けられた時があったっていうのは凄く大きいと思います。音楽が自分の全人生を支えてくれたし、助けてくれたからこそ、今でも音楽を凄く大切にしたいと思うし、そこに集中していたいって思うんです」

◆なるほど。確かに、その思いの強さかもしれないですね。アルバムの最後に"Am I wrong"という、ちょっと悲しい歌があるじやないですか。
 
「はい。この曲で終わらせたかったんです」

◆これ、結構切ない歌なんですけど、ここで《守るものはたったひとつ》って歌ってる、その「たったひとつ」っていうのは、YUIさんにとって「歌」ってことですよね?
 
「そうです」

◆逆に言えば、そこさえ守っていれば、どうにでも生きていけるというような、そういう強さをとても感じました。
 
「うん……でも《守るものはたったひとつ》ってあるけど、そのことで周りの人を困らせたいわけじゃないっていう心の葛藤を曲にしたかったんです。だから、別に「歌だけ」っていうわけではなくて……それが大切で、そこは譲れないところなんだけど……他に何も求めてないわけじゃない。でも、結局は《わかりあえないね》っていうフレーズに辿り着く。本当はわかりあいたい、でも《わかりあえない》っていう言葉が曲の中ではハマる時もある」

◆"Laugh away"のような弾けた曲から始まるけど、結局《わかりあえないね》っていうところで終わる。アルバムのストーリーとしては、普通だったら、わかりあって終わりたいじゃないですか?
 
「うん」

◆でも、ハッピーエンドにはできなかった?

「1枚目のアルバムも2枚目のアルバムも問いかけて終わっていて、完結することでは終わらなかったんです」

◆そうでしたね。
 
「だから、今回もアルバムの最後の曲は問いかけて終わりたかった。全部、次に繋げていくためなんです。終わったあとに聴いてくれた人の心に何かが残るようにしたくて」

◆さっきも言っていたように、歌によって自分の人生は救われたけれども、一方で歌によって犠牲にしてるところもある、っていうことを歌つているとも思ったんですけど。
 
「……う一ん……犠牲というか、どうしても譲れないことはある。自分にとって大切なものを守るために。でも、だからって他のものを拒否してるわけでもないんです。ただ、時にはそういうこともあるなって。そんな、誰にとっても共感してもらえるような広い音楽をやっていきたいっていうわけでもないし……」

◆そうなんだ。
 
「はい」

◆"I will love you"の、《いつも恋が走り出したら あたしはネガティブな夢に 苦しんでたの》っていうフレーズが、凄く耳に残るんですけれども、実際にそういうところってある?
 
「あります。確実にあると思います」

◆それは、なんでなんだろう?
 
「恋愛とかで、誰でもネガティヴな方向に考える時もあると思うんですよ。いろいろ気にしちゃったりとか、『あれは、なんでこうだったんだろう?』って考えると、キリがなくなっちゃうような。でも、そんなことも忘れちゃうくらい、実際の生活の中では穏やかに時が流れてるんだなっていうのを今は感じることが多いですね。そういうことは、誰もが感じることなんじゃないかな?と思うんですけど」

◆それは、他人をなかなか信用できないっていうこととかに繋がってるのかな?
 
「いや、そういうわけではないです。この"I will love you"にも、やっぱりまだ「わかりあえない」っていう他人との距離感は入ってると思いますけど。でも、"I will love you"、『私はあなたを愛すでしょう』だから、まだ『I love you』と言えない、その距離感はあるけど、そこで諦めるんじゃなくてそこから希望がある感じにしたかった。この曲も恋愛の曲だけど、恋愛だけじゃなくて人間関係全体にも言えることだと思うんです。ちょっとわかりあい始めたと思ったところから、『本当は何を考えてるんだろう?』っていう問いが始まるっていう」

◆YUIさんって、そういう人との距離感を歌にすることが多いし、決して誰とでもすぐ仲良くなれるタイプではないと思うんですね。
 
「はい(笑)」

◆でも、去年の武道館公演の時に改めて思い知ったんですけど、オーディエンスは本当にちっちゃい子から大人まで、男も女もどっちもたくさんいて、もの凄く幅広いリスナーの方に愛されてるじゃないですか。ステージ上でYUIさんが、あの濃密な空間に戸惑うことなく、ちゃんとすべてを受け止めてるのが凄く印象的だったんです。リスナーの顔が見えてきたって言ってましたけど、こんなにたくさんの人が自分の音楽を熱心に聴いてる今の状況っていうのを、YUIさんはどのように思ってますか?
 
「そうですね……もちろん、時には戸惑うこともありますけど、『FROM ME TO YOU』っていうファーストアルバムに込めた気持ちが今も凄く強くあって。あまり大勢の人に向けて音楽を作ってるという意識はないんです。リスナーとは『私とあなた』の一対一の関係だと思うから。その『私とあなた』がいっぱいあるだけなんです。だから、ライヴ前とかに考えるのは、たとえばちっちゃい女の子が「ねえ、お母さん、YUI観に行こうよ!」って言ってくれて、家族みんなで来てくれたりするリスナーの姿だったりとか、凄く遠いところからひとりで新幹線に乗って、会場までいろいろ道を間違えたりしながら来てくれたリスナーの姿だったりとか、そういう姿を一つひとつ想像して、そこから自分も元気とかパワーもらうので。本当に、感謝してもしきれないくらいの気持ちがあるんです。去年の武道館には母親が来てくれたんですけど、もともと親孝行したいっていう気持ちで音楽を始めたっていうのもあって、今はそれが母親だけじゃなく、本当にみんなに「ありがとう」って。一人ひとりに「ありがとう」っていう気持ちなんです。そんな気持ちでずっといたいなって思ってます」

◆自分の音楽が、なんでこんなにたくさんのいろんな趣味趣向を持った人に聴かれるんだろうっていうことを、自分自身でちょっと分析したりすることはありますか?

「それはわからない(笑)。わからないけど、自分はこれからも楽しいと思ったことをするし、面白いと思った物があったら取り入れていきたいし、やっぱり音楽に対しては凄く正直に、真面目にやりたいと思ってる。そこは本当に真剣に考えてますけどね」

◆その音楽をやる動機の純粋さっていうのは、きっとこれから作品を追っていっても変わらないところなんでしょうね。今回の『L LOVED YESTERDAY』を聴いて強く思ったのは、「あっ、これからもYUIさんって変わらないんだろうな」っていうことで。1作目とか2作目とかだけだと、まだわからないじゃないですか?3枚目のアルバムってアーティストにとって凄く重要なタイミングだと思うんですよね。3枚目で本当にいい作品が作れるミュージシャンって、その先の持続力もある方だと思うんですよ。すいません、なんか偉そうな言い方なんですが(笑)。
 
「いえ、ありがとうございます(笑)。ありがたいです」

◆自分の未来のことを考えますか?たとえば、この『L LOVED YESTERDAY』という3枚目のアルバムが、未来の自分にとってどういうアルバムになるだろうとか、そういうこと。
 
「そうですね……う-ん、難しいけど、今はこの作品ができて、とりあえず凄く納得のいく、満足のいくアルバムなんで、今はこの時間を満喫できてる(笑)。だから、これからも目の前のことだけをちゃんと集中して見ていきたいですよね。先のことは考えても仕方ないし。『目の前のことを真剣にやったら、その次がある』って言ってた人がいて、それは凄く素敵な言葉だなって思うので、そういうふうにやっていけたらと思いますね」

◆最近よく聴いてる音楽ってあります?
 
「最近凄く好きでよく聴いているのはジェームス・イハのアルバム(スマッシング・パンプキンズのメンバーだったジェームス・イハが1998年にリリースした唯一のソロ・アルバム『Let It Come Down』)。凄く爽やかな作品で」

◆あぁ!あの作品はYUIさんの作品に通じるところはありますね。普遍的で、キレイなメロディがたくさん詰まってて。
 
「キレイなカフェで最影をしてて、そこで流れていて、「これ誰のですか?」って店員の方に訊いたらジェームス・イハっていう人の作品ってことだったので聴いてみたんですけど、凄く気に入って。CDを買って初めてスマパンのメンバーだった人で、しかも日系人だってことも知って。誕生日も一緒なんです(笑)。びっくりした」

◆でもあの人、あれ1枚しかアルバム出してないんですよね。
 
「そうなんですよね。もったいない!もっと聴きたいのに!」

◆今日はどうもありがとうございました。話をしていて、本当に頼もしいミュージシャンに成長したんだなって、改めて痛感しました。また凄い曲を聴かせてください!
 
「はい。ありがとうございました」

いままでYUIに「どうしてROCKだったの?」なんて訊いた人はいなかった。創作の秘密から、最近の音楽趣味まで幅広くカバー。、《いつも恋が走り出したら あたしはネガティブな夢に 苦しんでたの》という歌詞について実際にそういうことがあるかどうか訊いてみた箇所はびっくりした。YUIには創作の苦しみがないというのも重要な証言だ。もしもLove is allが切ない恋の歌だったら?なんて考えてもみなかった。写真にしてもYUIをカワイく撮ろうなどとまったく考えていない。YUIの内面に迫ろうという意気込みを感じる。
YUIの音楽を、日本語を理解しない世界の人々もフォローし始めている。このことが何を意味するのか、たいして曲を聴いてもいないで批評する人に訊いてみたい。

1 件のコメント:

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    これ、良いとは聞いていながらも買いそびれていたものです!ありがとうございます(笑)MUSICAインタビュー久しぶりに登場してほしいですね。

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