スタインベックの「怒りの葡萄」(1939)を伏見威蕃訳2015年新潮文庫上下巻で読む。
ジョン・スタインベック(JOHN STEINBECK 1902-1968)は自分が中学生のころから名前は知っていたけど未読だった作家。「怒りの葡萄 THE GRAPES OF WRATH」は1940年のピュリッツァー賞受賞作。後にノーベル賞も受賞。
世界恐慌後のアメリカ中西部、零細個人農業と小作農は不況と強欲銀行とトラクターによって土地を追われて一家で流浪する。
日本も世界恐慌では東北の農村が立ち行かなくなって娘を売ったりする悲劇があったし新卒大学生は就職できなかった。アメリカも多くの人々が失業し路頭に迷う。
オクラホマのジョードー家も家を失い一家でカリフォルニアを目指す。その理由が、果樹園で果実を摘む季節労働のビラを見て。それって…頼りにしていいのか?
昭和初期の日本と違ってアメリカの農民はトラックがあるだけマシ。一家とわずかな家財道具を積み込んで国道66号を西へ。
だが、この時期のアメリカのオクラホマ、アーカンソー、ミズーリ、テキサスでは多くの家族が砂嵐によって耕作不能になった土地を棄て新天地カリフォルニアへ流入。
これがまさに現代のアメリカ・メキシコ国境やヨーロッパ・中東・アフリカで起こってること。
あまりにも大量の経済難民が押し寄せる。カリフォルニアの果樹園も季節労働者を必要としてても、やってくる人々が多すぎる。一日で20セントにしかならない労働を、募集をはるかに上回る求職者がやってくると、どんどん労賃を安くする。その仕組みに怒りと絶望。ほぼ竹中平蔵。
しかも、労賃を上げてくれるように団体交渉しようものならアカ(共産主義者)呼ばわりで牢屋にぶちこまれる。時と場合によっては殺される。
ぜんぜん仕事も見つからない。やっと見つけて家族で1日1ドルにも満たない。必要な食事もとれない。もうどうしようもない。
もう労使の関係がほぼアメリカ版「蟹工船」。読み進めることが苦痛。それに、文体が英米文学の文豪そのもの。読むのに慣れと忍耐が必要。芸術性と格調が高い。
アメリカ人の多くが世界恐慌はフーヴァーのせいで起こったと考えていた。なので、カリフォルニアに流入したオクラホマ人たちが棲んだ掘立小屋村スラムをフーヴァーヴィル(フーヴァー村)と呼んだ。
日本も十数年間にリーマンショックで仕事を切られた人々が「派遣村」を作ったことがあったのだが、竹中村とかヘーゾー村と呼ぶべきだったかもしれない。
このちょっとあとに日本はアメリカと戦争して敗れる。日本人は豊かな国アメリカに負けたと思ってたのだが、アメリカの貧困は日本、中国、ソ連、欧州のどことも変わらないレベル。
貧しい者は貧しい者同士で助け合うのだが、富を持つ者は多すぎる貧しすぎる者に恐怖する。それは今の日本も同じ。
持つものが持たざる者に対して冷たいし侮蔑的。まあ、カリフォルニア人もこんなにも大量の無一文労働者が流入してきたら恐怖から排斥に全力になるのもわからないでもない。日本も流入する貧しい外国人への寛容の心はとうに失ってる。これを許すと自分たちの賃金も押し下げられる。
「怒りの葡萄」は世界中の多くの読者に強い印象を与えた。こんなことではいかん!社会を改革する必要を感じる。
とくに労働者を使役する側に倫理観が必要。この本をある程度の知性があるアメリカ人はみんな読んでるはずだが、現代のアメリカは「怒りの葡萄」から何かを学んだり進歩してるように思われない。共和党の議員たちとICEや警察官はたぶん読んでない。
終盤の畳みかける様な酷い出来事の連続は言葉を失う。この状況でも平静を保って再拝する母親の強さに感心しかない。普通なら途中で精神が狂うと思う。
いやあ予想以上に名作。読んだことない人は読むべき。自民党議員は全員読むべき。
PS. ジョードー家が西へ進むルート66の途中に「バーストウ」という地名が出てくるのだが、これって第6回アメリカ横断ウルトラクイズに出てくる「バーストー」のことか!
自分にアメリカの地理を教えてくれたウルトラクイズは偉大。
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