梅原猛「海人と天皇」(1991)を読む。これは朝日ジャーナル誌に1989年から1年間連載されたものを単行本にしたものの新潮文庫化(1995)した上下巻。
これもブックオフで買って10年積読してたもの。値札を見たら各108円。
実はこの本はもう十数年ほどまえに一度開いたことがあったのだが、当時はまだあまり古代史の知識がなく、一部の章では完全に自分の現在地を失ってしまった。だが今回は集中力を保って読み通した。
推古天皇以下6人の女帝を輩出した飛鳥・奈良時代を、聖徳太子登場から桓武天皇までの歴史を解説する梅原先生の講義。
「小墾田宮があったのは飛鳥でもなく豊浦でもなく大福!」など強い調子で語る。
紀州日高郡の道成寺に伝わる「文武天皇の后妃宮子は海人の娘である」という伝承って何なん?これが調べてみたら状況証拠からどうやら本当らしい。正史よりも伝承のほうが真実を伝えてる可能性が高い場合がある。政府公式よりも地方紙や週刊誌のほうが真実ってやつ?!
「宮子が海人の娘」という前提で歴史を見つめ直すと、文武帝と宮子の息子の聖武天皇の謎の性格、さらには孝謙・称徳天皇がやろうとした貴族制度を破壊するかのようなふるまいが納得できてしまう。別の意味を持って読み解ける。これがこの本のキモ。
藤原不比等は自身の野心のために天皇家と皇統を思いのままに操った。歴史も自身の思うがままに書き換えた。美しい海人の娘を子を産むための道具のように扱った。それは宮子にとっても聖武天皇にとっても悲劇。
その他はわりと散漫な感じで歴史トピックを書き連ねてる。たまに好きなページを開いて読むには最適。知的な時間を過ごせる。
下巻で孝謙天皇と道鏡のページが多い。道鏡は「宿曜秘法」でもって「藤原仲麻呂の乱」を調伏鎮圧したのだが、梅原せんせいはその箇所で「そういうことは過去に限ったことじゃない」としている。
先ごろの第二次世界大戦にも、1人の真言僧が活躍したという。彼の名は金山穆韶(ぼくしょう)。彼は、当時のアメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトの調伏祈祷を頼まれ、それを実行し、ルーズベルトは間もなく死んだ。その僧は「わしの呪法のおかげでルーズベルトは死んだ」と密かに人に自慢したという。
と語る。自分も長らくルーズベルトの死は只事ではないなと感じていたが、そんなことがあったのかと驚いた。(金山穆韶をググって調べてみても、そんなことは検索上位に出てこない。)
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