2025年1月25日土曜日

中公新書2587「五・一五事件」(2020)

中公新書2587「五・一五事件 海軍青年将校たちの昭和維新」小山俊樹(2020)を読む。
自分、五・一五事件に関する知識は松本清張「昭和史発掘」と血盟団事件に関する本でしか知らない。

昭和7年5月15日犬養毅首相が首相官邸で海軍青年将校によって銃撃暗殺された事件。
この本、いきなり殺害現場の詳しいやりとりから記述。首相官邸の日本間の詳しい間取りとか初めて見た。
自分、「話せばわかる」「問答無用!」のやりとりに関しては小学生のころから知ってはいた。(実際はそういうやりとりじゃなかったらしい)
だが、襲撃グループの誰も極刑になってなく戦後まで生き延びたことを知ったのはつい最近。

政友会の森恪黒幕説とか、事件後の政局とか、自分が知らなかったことだったのでこの本からいろいろ学ばせてもらった。

だが、いちばん注目したとこはテロ事件首謀者たちの裁判。なにせ首相暗殺事件。結果が重大すぎる。なのに量刑が甘々すぎる。

事件発生直後に信濃毎日新聞(1932年5月17日付)で、「犬養さんが気の毒」「軍人ならば会ってやろうと気を許したのが運の尽き」「狂人に対する認識不足」「狂犬の群れが『祖国を守れ』とかw」「大臣の首さえあれなんだから国民の首なんか水瓜か大根だろ」と首謀者を攻撃。
福岡日日新聞(5月17日)では、「暗殺というより虐殺」「軍人が政治に容喙することは軍隊および軍人の漬乱頽廃」

しかし世論は違った。新聞社には抗議と不買運動。主幹は辞めさせられた。
陸軍の公判が始まると、判事たちが「青年たちの供述に感激し、控室に戻るなり体を震わせて泣いた」wだの、「私心なき青年の純真」だの言う始末。弁護人も新聞記者も感動w 
以後、「政党による軍部の圧迫」だの「政党・財閥ら支配層の腐敗」だの「農村の窮乏」だの、被告らテロ実行部隊への同情を買うメディア・キャンペーン。軍部の思惑通り。

反乱罪の首魁の量刑は死刑しかない。それがグローバルスタンダード。だが、陸軍からの参加者は一律禁固8年という軽い求刑。判決は禁固4年という軽い判決。
海軍側からの首謀者、古賀清志(26)中尉、三上卓(29)中尉、黒岩勇(27)予備少尉に死刑が求刑されると全国から減刑嘆願。

結果、古賀と三上は禁固15年、黒岩は禁固13年、という予想外に軽い判決。首相と警備の警官が亡くなってるのに?首魁は第一次上海事変で戦死した藤井斉ということにしてしまおう。
軍人の事件関係者は軽いのに、愛郷塾頭・橘孝三郎のような民間から連座した人々は爆発物取締規則違反と殺人・殺人未遂で無期懲役判決とか、量刑に差がありすぎだろ。
(これは後に2.26事件に参加した青年将校たちに間違ったメッセージを与えた)

判官びいきで浪花節が大好きな人々からの同情論。傍聴席で涙ながらに温情判決を願う老婆、「どうやって小学生に忠君愛国を教えれば?」と憤る教員、「515の方々を死なせたくない」と遺書を残して電車に飛び込む少女…。
さらに笹川良一、中里介山らも被告たちを擁護。メディアと世論の高揚の空気に流され過ぎ。これ、最近どっかで見た。

昭和初期という昔のことだからと笑って見過ごせない。令和の今も、「SNSで真実を知った」「きっと本当はいい人」「腐敗した県議会と闘い改革を進めてくれるはず」とか言う、事実関係でなく、人(ポジティブなことしか言わない)を見てなんとなく流される大勢の人々が怖い。

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