2025年1月23日木曜日

小川哲「地図と拳」(2022)

小川哲「地図と拳」(2023 集英社)を読む。第13回山田風太郎賞と第168回直木賞を受賞するなど話題の本。625ページもあるかなり分厚い本。何も予備知識はないまま読み始める。

時は1899年夏、松花江を遡る船に帝国陸軍高木大尉とインテリメガネ通訳細川。これが決死のハルビン潜入調査。商人の振りをしてたのだが小刀を見つかりロシア兵から銃を突き付けられるなど大ピンチ。
しかし二人は李家鎮に「燃える土」の鉱脈があるという重大な情報をつかむ。
そして義和団事件。匪賊とロシア人宣教師。日露戦争。

どうやらこの本は、多くの人々の希望と命を飲み込んだ「満洲」という土地自体が主人公。「満洲とは何だったのか?」を問う群像劇フィクション時代小説。李家鎮という町も登場人物たちもすべて架空のもの。

炭坑の村・李家鎮が舞台。軍人、ロシア人宣教師、匪賊、日本軍と取引する漢奸、抗日ゲリラ女、憲兵、帝大卒インテリ、八路軍、そして日中は泥沼の戦争。さまざまな人々が次々と現れる。

満洲の地図をつくり、炭坑町での都邑計画の話だと思ってたのだが違ってた。内容はあんまり「地図と拳」というタイトルに合ってなかった。断章的な連作のようだが、満洲に関わってしまった人々の50余年の夢マボロシ大河ドラマ時代小説。

なんだか、この分厚い小説には特に主人公と呼ぶべき人物はいなさそうだが、満洲で地政学研究をしてる細川と、細川が満鉄にスカウトした気象研究者と高木大尉の未亡人の息子・明男はずっと出番がある。

小川哲という作家は1986年生まれだというのに、満洲を義和団事件から日露戦争、満洲国、日中戦争とすべて見て体験してきた世代の体験談を読んでいるかのような錯覚。
こういう小説はなんとなく設定だけとうものが少なくないのだが、この作家の語り口は本当に当時の人々が話してたことのようなリアリティと知性。圧倒された。

ある程度は満洲の歴史に詳しくないと置いていかれるかもしれない。とくに説明的でリアリティのない会話とか見当たらない。硬派でハードボイルドぽい。男女のロマンス要素もない。

読み終わってかなり強い印象と満足度。625ページが飽きる事なくずんずんめくれた。この作家さんはすごい。ほぼ傑作。強くオススメする。NHK大河はいつか満洲をテーマにするべき。

0 件のコメント:

コメントを投稿