安部公房「けものたちは故郷をめざす」を岩波文庫(2020)で読む。この作品は1957年に講談社より刊行。初期の代表作らしい。
満州で生まれ育った久木久三は満州国崩壊の混乱に放置される。父は以前に死に、流れ弾に当たった母を看病し最期を看取ったら、すでに日本人たちはみんな退避。ひとりぼっちで取り残される。まだ見ぬ両親の故郷・日本をめざすしかない。
この小説、あまり時代背景とか状況を説明してくれない。いやほとんどない。
ソ連兵、モンゴル兵、八路軍、国府軍?そこにある危険の正体がよくわからない。読者にわからないのだから、たぶん久三少年にもわからない。
ソ連兵なんかと一体なぜ酒なんか飲んでる?証明書?それはどこで何の役にたつ?
なんとか列車に乗り込むも事故。車両で出会った日本語の喋れる自称新聞記者と行動を共にする。この男は相手によって名前を変えてる。何か秘密を抱えているのだが、たぶん闇商人?以後、「高」と名乗る。
このふたりだけの厳寒満洲逃避行が悲惨。食料が乏しいし寝床もない。なのに高は高熱を出して生死をさまよう。久三少年はこの男の面倒を見ながら一緒に移動。
高がどこへ行くのか?何も説明してくれなくてイライラ。
お金も腕時計も失う。衣服も毛布も奪われる。泥水すすって何度も吐いて。冷たい満洲の大地をさまよう。
でも結局いちばん酷薄だったのが日本人たちだった。孤児となった久三に薄情。
満洲から逃げのびてきた人々は多かれ少なかれこんな酷い体験をしたんだろうと思う。
この小説はあまり安部公房らしさがない。敗戦直後の悲惨な状況を描いているのになぜか読んでて楽しい。少年の娯楽冒険小説のようですらある。これは中学生でもすらすら読める。
これは令和の今、若者の多くが経験していることかもしれない。酷薄な自公政権が何も助けてくれず、辛い思いをして地べたをぐるぐるはいずり回って無駄なあがきの末に結局徒労。いや、読んでてつらいしやりきれない。
0 件のコメント:
コメントを投稿