2024年1月18日木曜日

樋口一葉「大つごもり・十三夜」

樋口一葉「大つごもり・十三夜」他五篇を1979年岩波文庫版(1986年9刷)で読む。これも処分するというのでもらってきたもの。樋口一葉を読むのは久しぶり。

その昔、本上まなみさんが樋口一葉が好きだというので何作か読んだりした。下谷竜泉町や本郷菊坂へ出かけたりした。もう一葉の時代の風景はほとんど残ってないけど。

樋口一葉(1872-1896)享年24には短編しかない。そのどれもが頭にぜんぜんすっと入ってこない文体。
なにせ明治20年代。ある意味、西鶴や近松よりも読みにくい。明治のこの時代の東京の庶民が使っていた表現が多数。何度も同じ箇所を読んでみてやっと意味がわかる。なのでページは薄いが読むのに時間がかかった。

しかし、昔読んだよりは今の方が意味が解る。声に出して読むと調子がいい。落語のよう。
一葉は父親が士族ではあったが死没し生活が極度に困窮。教育というものを受けていない。師は三流文士。
なのに美文だし格調高い。上野の帝国図書館(当時は有料)にせっせと通って古典を読みふけったせい。若いのに感心だし尊敬。文壇で注目されたら不治の肺の病とかほんと気の毒。
そんな一葉の短編はどれも明治の庶民の悲哀を描いてる。

この文庫本に収録されている7作はどれも自分は初めて読んだ。

大つごもり(明治27年)
貧乏で年が越せない伯父のために、奉公先で2円の給金前借しようとするもアテが外れ、ついに横領?!という鬱小説か…と思いきや、意外なラスト。東京は今も昔も貧富のコントラストが強い。
「子は三界(さんがい)の首械(くびかせ)」という言葉を知らなくて知れベてみたら、この「大つごもり」から引用してることが多い。少子化対策と逆を行くことわざに聴こえる。

ゆく雲(明治28年)
志を立てて東京に学ぶ青年が故郷の山梨に帰って結婚する。そのために淡い恋心を抱いていた娘との切ない別れ。

十三夜(明治28年)
身分の違う嫁ぎ先から子どもを置いて実家に逃げ帰ったお関。夫が散々自分をバカにするので我慢ならない!と両親に愚痴。しかし父はお関を諭して返す。
え、気づいたら車夫が没落した幼なじみ?!
これが今回読んだ7作品のなかで一番好きだった。明治の人々の一場面を描いた戯曲のようだし短編映画を見るよう。

うつせみ(明治28年)
東大植物園の近くの家に引っ越してきた家族が十代後半の娘(幻覚を見るような精神病)の看病介護をしてる…という風景。悲哀しかない。

われから(明治29年)
母と娘、2代の夫婦関係の破綻。代議士の夫を持つお町は夜になると家で独りぼっち。寂しさのあまり書生に親切にしてしまうのだが…。
え、お町は離縁されるようなことした?ページをめくってもそんなことは書いてない。噂だけで家を出される?いやこいつ入り婿なのに?明治時代を知るのに重要な小説。

この子(明治29年)
一葉が残した唯一の文言一致体小説。女の夫への告白形式による訴え。子が可愛すぎていろんなことが無理!一気呵成。まるで太宰の「駆け込み訴え」。

わかれ道(明治29年)
傘屋の小僧の吉(16)は夜になると近所のお京(20)が針仕事してる傍らで餅を焼いて食べる間柄。吉に出世するように言うのだが、吉はそんなのムリだしその気もない。
年末になって急にお京から引っ越して行くことを告げられる。妾となる?!それは切ない。

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