2022年1月6日木曜日

乙一「一ノ瀬ユウナが浮いている」(2021)

乙一「一ノ瀬ユウナが浮いている」(2021 集英社)を読む。たぶんヤング向けに書き下ろした本。乙一の本を久しぶりに読む。
表紙イラストはloundraw(FLAT STUDIO)。装丁は有馬トモユキ(TATSDESIGN)。中高生が手にとりそうな本に仕上がってる。
Floating Yuuna Ichinose by Otsuichi 2021
タイトルがいいなと思った。たぶん内容は幼なじみ美少女幽霊もの。こういうの、映画でもドラマでもよく見る。たぶん「あの花」のようなものだと想像。

主人公大地は田舎の少年。10才でユウナ(美少女)と出会う。
ユウナは少年ジャンプが大好きだが買ってもらえない。大地もジャンプ読者だが読みたい連載漫画しか読まない。読み終わるとユウナへ譲る。ユウナはすべての連載に目を通す。水を入れたコップに葉っぱを浮かべて手をかざす「HUNTER×HUNTER」ごっこをしたりする。一緒の季節を過ごす。

中学生も高校も幼なじみ5人は仲良し。周囲からはふたりはつきあってるように見える。だがそれは幼なじみで仲が良いだけで恋人未満。
ユウナは高校を卒業したら東京の大学へ行って漫画に関わる仕事がしたいという夢がある。自分も東京の大学へ行くのかな…とぼんやり考える大地。

だが、豪雨の夜に自転車が用水路に転落しその先にある遊水地に浮かんでいた。一ノ瀬ユウナ、享年17歳。仲がよかった4人は落ち込む。大地は廃人同然。

だが、ユウナの好きだった線香花火に火をつけるとユウナが霊となって召喚できることに大地は気がつく。「一ノ瀬ユウナが浮いている」
ふたりは会話が普通にできる。ユウナの霊は大地にしか見えない。
死んでしまってから読めなかった少年ジャンプを取り寄せてユウナに見せることで成仏できるかも。

部屋の天井裏に隠してあるマンガ原稿を探し出して読まずに焼却してほしいというユウナの願いを叶えるため大地は行動。だが、ユウナのシスコン弟一郎に見つかってしまい…という展開とか、この手のジャンルにいかにもありそうな楽しいエピソード。
そして大地少年は将来と進路のことで悩む。「何もやりたいことがない」

ユウナを召喚できる線香花火はもうすでに作られていない。今あるぶんを使い切るともうユウナを呼び出せない。
大地は文学部をめざすことにした。オープンキャンパスのために東京へ。各地でユウナを召喚しデート。だが、「もう私を呼び出さないほうがいいのかもしれない」

残り少なく貴重な線香花火は留守にしている間に従弟の子どもたちに使われてなくなっていた。もうユウナを呼び出せない。そして高校を卒業。世の中はコロナ禍…。

この小説は震災の年に始まってコロナを越え、その数年後まで進んでいく。予備校へ通い大学に入り卒業して社会人。小さな出版社に勤務。大地は27歳になっていた。
地元に残った友人からタイムカプセルを掘り起こしたと連絡が入る。急いで地元に戻る。すると、タイムカプセルの中に1本だけあの線香花火があった!

死者と会える線香花火があったらいいなというファンタジー。装丁を見て期待したものが期待した通りに出てくる。中高生が読めば楽しめるだろうと思う。

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