講談社新書2538「ノモンハン 責任なき戦い」田中雄一(2019)という本があるので読む。NHKスペシャルのために取材した内容をNHKのディレクターが書きまとめた本。
太平洋戦争に関する映画やドラマはいくらでもあるのだが、1939年5月から8月まで、ソ満国境をめぐって日本とソ連が第1次から第3次まで大規模武力衝突した「ノモンハン事件」(ロシア側ではハルハ河戦争)はまったく見ない。日ソ双方に多大の被害をもたらした悲惨な戦争。
著者は事件当時21歳で戦闘に参加していた元兵士にインタビューしてるのだが、すでに102歳になっていてちょっとびっくり。もうこれからは生存者に直接話を聞くのも難しい。
戦場で若い命を散らした友人たちを想い、なくてよかった戦争だったと関東軍の参謀辻政信を呪詛。
そして、アメリカの戦史研究家アルヴィン・クックスが録音収集したノモンハン関係者たちへのインタビュー肉声録音という一次資料を使用。そしてロシアが保管するアーカイブ資料などなどから取材。
軍中央は中国との戦争に手こずりソ連と事を構えたくない。だがソ満国境では日々小競り合い。ナメたマネしてるソ連軍をここはちょっと懲らしめないといけないという血気盛んな辻や服部ら若手参謀。
国境を超えて敵地を攻撃することは天皇の大権。それを犯す辻。中央の参謀本部を出し抜く。戦果を挙げて意気揚々としてるところに激怒の電話。関東軍と中央の連絡が上手くいかなくなるきっかけ。
植田謙吉大将の一声で精鋭の第七師団でなく、結成間もなく初年兵が多い第二十三師団に作戦が任されたのも酷い話。戦車もなく明治の三八式銃で戦うの?!悲劇の連鎖。
日本の参謀本部「ソ連にはドイツというリスクがあるから本格的には日本と事を構えないだろう」という楽観論。
スターリンは衛星国モンゴルを脅してソ連軍を駐留させるよう要求。ゲンデン首相を「日本のスパイ」と連行し処刑。後任にチョイバルサン将軍を据えるとかも酷い。
ウクライナの農民を餓死させてまで穀物で外貨を稼いでそのすべてを重工業につぎ込み戦車と航空機を整備し軍事優先。日本も酷かったけどスターリンのやり口は酷い。蒋介石はそんなスターリンにすり寄る。
辻政信の生まれ育った集落の人々によれば、辻は思いやりのある優しい人だったと語る。幼年学校、陸軍士官学校を首席。陸軍大学を3番目の成績で卒業したエリート。
だが息子(東大卒でNTT入社後関連企業で社長を歴任)は父を「何度も左遷された苦労人」と語って「辻はエリート」論を否定。「絶対悪」と呼んだ半藤一利を絶対許せない。「人間を絶対悪と呼ぶようなやつは人間じゃない」
この息子がNHK取材班に「半藤が関わってるなら協力しない」という。そういう態度もどうなの?(辻の子として学校で日教組教師からイジメられたことは同情するが)
日本兵が三八銃の一発一発を大切に撃つ間に、ソ連兵は大量の弾丸を撃ってくる。BT戦車も走り回る。圧倒的な物量差。これはかなわない…。
日本には戦力も装備もないのに関東軍の参謀たちはハルハ河東岸防衛にこだわり越冬。資材運搬の車もないのに。
これはダメだ。現代の若者はこういう現実の見えていない根性論指揮官を嫌う。いくら「実はいいひと」といっても必要のない多大な犠牲を払うことになった責任者辻は誰もかばえない。たぶん半藤一利のほうが全体がよく見えている。
ノモンハンで多くの兵士を失いもう戦えなくなりギリギリの状態で任地を離れた中隊長が自決を強要された件は酷い。捕虜になった者への扱いが過酷。故郷の村にもどっても蔑みの目。家族にも嫌がらせ。日本は本当に酷い。なぜ戦争に負けた時にみんな自決しなかった?
録音された肉声で関東軍や参謀本部の誰からも悔恨や反省の念が感じられない。自決させた下士官の遺族にも何も話さない。みんな無責任。責任を押し付け合う。これが日本。嫌な気分にしかならない。
捕虜や下士官は厳しく処断されたが、服部と辻はひとまず左遷されたが、反省もないまま、また華々しく参謀本部に戻れた。もうワンチャンあるのはいいことかもしれないが、このコンビはまた太平洋戦争に関わりガダルカナルでまた失敗。多くの兵士遺族から呪われた。
今はグーグルでハルハ河東岸をストビューで見れたりする。今もモンゴルと中国の国境地帯。こんな土地の為に多くの日本の若者の命が失われた。負傷兵が捨置かれた。まったく必要のなかった戦争。
東京五輪開会式を仕切った電通がノモンハンのようにあいまいに処理されてはならない。
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