2021年5月9日日曜日

永井路子「北条政子」(昭和44年)

永井路子「北条政子」を昭和49年角川文庫版で読む。(現在では文春文庫から出てる。)
昭和42年夏よりいくつかの地方紙に連載されたもの。644ページの長編。来年のNHK大河ドラマがひさびさ鎌倉時代なので予習を兼ねて。

雨の夜、男が通ってくるのを待っている政子…というシーンから始まる。地黒で口が大きくお喋りで気が強い行き遅れ21歳処女という焦り。男の足音がしたけど結局侍女へ通う男のものだったという屈辱。
「おばかさん。待ってるくせに…。」政子の言葉が現代語でちょっとびっくりする。

下品で好きじゃない安達盛長がやってくる。こいつは蛭ヶ小島の流人源頼朝の家人。頼朝から館への誘いの手紙を持って来る。
馬上の頼朝を見かけたことがあるけど、目鼻立ちがハッキリしてて色白。30歳のわりにじじくさい。それにこっちを見もしない。16年間神仏に祈りを捧げてるだけの人。

で、頼朝に会いにいってみる。もうその夜から男女の関係。これが中世日本の常識。
源頼朝と北条政子。日本の歴史上これほど重要で重大な男女の出会いシーンは他にない。
しかし、プレイボーイ頼朝は地元豪族の娘や身分の低い娘にまで手を出す。政子激怒。

京都での勤めから帰ってきた北条時政は長女と同じ年の後妻(牧の方)を連れてきた。なのに政子が頼朝とできてて激怒。政子を山木兼隆に嫁がせようとする。政子が頼るのはしっかりもの兄三郎宗時
政子は兄の協力で頼朝の待つ伊豆山権現へ逃亡。土肥実平の館で過ごし、やがて娘も生まれ、時政と和解。

源氏の旗揚げ、山木館襲撃、大庭景親らとの石橋山合戦。そして安房に逃れ坂東武者たちが次々と従う。ここ、永井先生はほとんど関心なかったらしくあっさり描写で一瞬で終わる。そして鎌倉に親子で住む。やがて男児(頼家)も誕生。

夫婦最大の危機が亀御前をめぐる政子の嫉妬による大喧嘩。亀御前の居る伏見の館を打ちこわした牧宗親の髻を斬った件で時政大激怒。北条は伊豆へ引き上げる。ただ一人館に残ったのが四郎義時

重厚な歴史小説かと思って読んできたのだが、あまりに現代的で軽くてコミカルな北条ファミリードラマでびっくり。なにこれ、面白い!まるでマンガ。
(2022年大河ドラマは「鎌倉殿の13人」。三谷幸喜脚本ならきっとこの騒動をさらにに面白く描けそう。牧が政子の差し金であることをアッサリ白状してしまい、安達盛長と比企能員の「あちゃ~」という顔が今から楽しみ。)

九郎義経の源平合戦での活躍はほとんど書かれていない。頼朝と義経はどんどん仲違い。長女大姫と仲の良い木曽義高(木曽義仲の子)を冷酷に殺した頼朝を、政子は憎む。
大姫は父と母に心を閉ざしノイローゼ。そして頼朝は静御前の子までも殺す。奥州藤原を攻め義経を殺す。その幼い妻(河越重頼の娘)までも死なす。

長男の万寿(頼家)が周囲を召使だと思ってる。母の言う事もまったく聞かない。残酷で酷薄。すでに母子で対立。
富士裾野で頼朝と父子で巻狩。万寿が鹿を射止めたことを鎌倉に早馬。だが、政子は不機嫌。夫が美女をはべらせてるのも腹が立つ。使者に立った梶原景高は喜んでもらえると思ってたらアテが外れる。

このとき有名な曽我兄弟の仇討が発生するのだが、死傷者リストから見て、ふたりでできるようなことじゃない。しかも犠牲者は伊豆相模の人間が多い。
「後は任せろ」発言で失脚した範頼の件も、吾妻鏡に書かれてるようなことじゃなく、反北条反鎌倉勢力によるもっと大掛かりな事件。というのが永井先生の説。

二代目頼家が邪知暴虐の狂王。安達景盛が都から連れ帰った妻を拉致するなど非道の限り。頼家の妻若狭局が小言を言いに来た政子を蔑むような目で見る。頼家は蹴鞠に熱中。永井先生は蹴鞠を現代のゴルフ熱に例えてる。なにか高級なことをしてるという錯覚。
若狭の父比企能員が頼家を自分の家の将軍のようにふるまう。政子の妹保子の夫阿野全成も殺された。政子「比企一族を討て!」

時政の家臣仁田忠常が頼家に命じられて富士宮にある人穴に行く場面がある。比企の者たちが待ち構えて襲撃される。これは失敗に終わる。頼家には「怪物に襲われた。浅間大明神だったかも」と報告。頼家は寝込む。
自分、5年前に人穴に行ったことがある。あの場所でそんなことが?!

後半はずっと血で血を洗う抗争。政子がずっと目にかけていた頼家の不良遺児公暁が実朝を殺す。背後には三浦義村が?!
頼朝に嫁いで40余年。夫、長女、次女、長男、次男、孫、すべてを失った北条政子。やはり源頼朝とその一族は呪われていたとしか思えない。

この本を読めば源将軍家三代のことがよくわかる。現代的感覚で書かれていて読んでいて面白かったし、読後の余韻も味わい深い。強くオススメする。早くまた鎌倉に行きたい。

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