2021年3月11日木曜日

遠藤周作「宿敵」(昭和60年)

遠藤周作「宿敵」を角川文庫版(昭和62年)上下巻で読む。小西行長加藤清正のライバル関係を描いた歴史小説と聴いていたのだが、実質主人公は小西行長。

この本は本能寺の変から始まる。そのとき備中高松城で清水宗治が衆人環視下で見事な最期を遂げる。彌九郎(若き行長)は堺商人の子として貿易をするために切支丹となったのだが、秀吉近習たちから「切支丹は自刃せずに敵の縄目を受けるの?」と笑われる。虎之助(若き清正)は笑わず侮蔑の眼差し。彌九郎「こいつ嫌いだわ」

清水宗治の自刃を見届け吉川・小早川と和睦し急いで姫路に戻った秀吉は、明智光秀と姻戚関係にある二人を秀吉に味方させるために、彌九郎には宮津の細川忠興の元へ、虎之助には郡山の筒井順慶の元へ、競わせるように向かわせる。まるでサラリーマン出世物語。

小西隆佐を父に持ち、堺商人たちの後ろ盾のある小西彌九郎に対し、加藤虎之助は槍一本の徒手空拳。虎之助や福島市松は彌九郎を「商人の子は商人」と蔑む。

切支丹禁令が出る。信仰のために所領も地位も捨てた高山右近に対し、彌九郎は棄教。そんな心も見透かす虎之助はさらなる侮蔑。彌九郎は秀吉に対し面従腹背という危険な心。

佐々成政を追い出した熊本に加藤清正と小西行長を当てる秀吉。この地は民心が反抗的。熊本を上手く統治する清正に対し、宇土の行長は苦戦。戦でも清正の支援を仰ぐ。この二人はライバルとはいっても武功においては雲泥の差。清正「こいつはいつか自分の足手まといになる」

躁鬱のボケ老人秀吉は明国に討って出る。切支丹の小西、大村、有馬、松浦、五島らを消耗品として敵国で使い倒す気だ。行長は対馬の少年領主宋義智らと図って、朝鮮は秀吉政権に帰順したことにしてしまおうという時間稼ぎ。もう戦争なんてしたくない。その意図は三成もなんとなくわかってくれて協力関係。

だが、朝鮮の煮え切らない対応は秀吉に伝わる。そして文禄の役。小西、宋両軍は釜山上陸。弓矢しかない朝鮮軍をいなしながら北に進軍。そこに第2陣の加藤清正がやって来る。「清正は秀吉に忠実なだけのバカだから、こちらの意図を台無しにしかねない。」

そしてやっぱり行長と清正の主導権争い。こいつら、お互いに連絡も取り合わないし助け合わない。そんな作戦は必ず失敗する。先を急いで京城に入るともぬけの殻。王と一行は火を放って平壌へ逃亡した後。清正は秀吉に威勢のいい戦況報告しかしない。かつての大本営みたい。

行長はわずかに繋がる伝手を使って和平を講ずるのだが、明の将にダマされ、講和に向けた交渉を清正に台無しにされ、多くの兵を失い命からがら退却。これも北へ進軍するも突然現れた中国軍の反撃に遭う朝鮮戦争のときの米軍と同じ様相。

下巻、行長は無益な戦争を止めるには秀吉を毒で殺すしかないとまで考え始める。行長と清正はますます対立を深める。
そして秀吉は死に、関ケ原合戦へ。結果、三成と行長は敗走。行長は伊吹山山中で敵に投降捕縛。家康から首枷という恥辱を与えられ市中引き回しの末に京で斬首。

一方そのころ、清正は小西隼人が立てこもる宇土を攻める。宇土にはもう勝ち目はない。勝者の温情。城主が腹を切れば城内の者は助ける。
そして、行長の妻糸は清正への復讐を誓う。かつて秀吉を殺したように毒を盛る…。

この本、文体がとても平易でさくさく読めてしまう。小西行長目線で秀吉時代を描くエンターテインメント歴史小説。司馬遼太郎のようにエロ要素が一切ないので中高生女子にも安心してオススメ。

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