2021年3月5日金曜日

中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」(2017)

中川右介「江戸川乱歩と横溝正史」(2017)が2020年12月に早くも集英社文庫化されたので読む。これは乱歩か横溝にちょっとでも関心のある人の多くがすでに読んでるらしい。

中川氏の書く本はたいてい面白い。膨大な情報量を読みやすくまとめてくれる   。乱歩と横溝それぞれの両親や家系から書いている。ふたりが幼少時に何をしていたのか?交互に時系列に照らし合わせる対比評伝。

日本探偵小説の二大巨頭。それが江戸川乱歩と横溝正史。このふたりはデビュー時期がほぼ同じだし生涯友人だったし、ときには一方が編集者として支えあったりもした。ずっと濃密な関係。

乱歩は父が破産したり職を転々と変えたことは知っていた。だが、頭脳明晰で要領よくテキパキ仕事ができた。どの職場でも能力を発揮していたことは意外だった。

どの仕事も途中で嫌になって棄てる。急に結婚することになって仕事を得たりする。やっぱり辞める。作家一本で食べていくのだが、原稿を書くのが遅いし、いつも悩んでる。なかなか書けない。だが、昭和の初めには全集も出てしまうほどの人気作家。

横溝正史は家庭環境が複雑。幼少より探偵小説に夢中。だが、兄たちをつぎつぎと若くして亡くす。数少ない家業を継ぐために薬学を学びに大学へ通う。なのに乱歩のススメで東京の博文館の「新青年」で編集者としてバリバリ働く。横溝も有能。毎晩飲み歩く。そして大喀血。

自分、昭和50年代の大ブームまで横溝正史は忘れられた作家だったと知らされていた。だが、この本を読むと繰り返し出版社を変えて再販されていたし、やはり乱歩と並ぶビッグネームだったと知った。

この本、大正昭和の出版業界の興亡と文芸誌の歴史も詳しく知れる。博文館や講談社、平凡社、新潮社、光文社、宝石社、そして角川書店などの歴史も学ぶ。

横溝は戦後通俗長編しか書かない乱歩を批判したことがある。乱歩は評判の「本陣殺人事件」を批判したことがある。これによって二人の友情は一時的にギクシャクしたこともあった…ということも初めて知った。

角川春樹が横溝邸を訪問したとき、すでに故人だと思ってた本人が出てきて驚いたというエピソードを以前見聞きしたのだが、この本によれば、それは角川春樹が話を盛っている。病気で会えないかもしれない…という程度だった。

カラーイラストのカバーを文庫につけたのは角川文庫が最初らしい。「八つ墓村」の角川文庫初版の表紙イラストが角川氏のイメージと違っていたらしく杉本一文イラストに変更。このイラストレーターも角川氏がたまたま目にしての決断。

その作家の本を何冊か読んでいれば巻末の解説などで、なんとなくその作家のことは知れる。この本はなんとなく知っていた知識をビシッと整理して教えてくれる。この二人の作家の本を読んだことがあれば、この一冊はとても楽しくあっという間に読むことができるだろう。読んでいて楽しかった。

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