2021年1月16日土曜日

ヴォルテール「カンディード」(1759)

ヴォルテール(1694-1778)「カンディード」を読みたくて岩波文庫版(植田祐次訳)を手に取った。

自分がカンディードという名前を知った最初はレナード・バーンスタイン作曲のミュージカル「キャンディード」だった。この舞台作品の序曲は大変に有名で、吹奏楽部に在籍していた人なら誰もが知ってる曲らしい。自分もこの序曲が楽しくて大好きだし全曲盤(DG)すら持っているw

この哲学コントが出版された1759年はルイ15世の時代。ヨーロッパは七年戦争(1754-1763)の真っ最中。

タイトルは正確には「カンディードまたは最善説(オプティミスム)」という。 ラルフ博士のドイツ語文からの翻訳 キリスト紀元1759年、ミンデンにおいて博士が没した折、そのポケットから発見された加筆手稿を含む」というてい。
かつてウエストファリア地方のトゥンダー=テン=トロンク男爵さまの城館に、生まれつき品行まことに穏やかな一人の若者がいた。心に思ったことがそっくりそのまま顔に出る質だった。それに、いたってまっすぐな判断力と世にも純朴な気質をそなえていたから、カンディードという名で呼ばれたのも、思うにそのためだったに違いない。
カンディードは伯父男爵の娘キュネゴンド嬢とキスしてるところを見つかって男爵に尻を蹴られ城館を無一文で追い出される。その後、ブルガリア(バルカン半島のブルガリアでなくプロイセンの一地方)の兵士にされ、鞭で打たれ、戦争が始まるなど散々な目に遭いボロボロになって脱走しオランダへ。ジャックという善良な再洗礼派(アナバチスト)に拾われ工場仕事を得る。

梅毒に冒されボロボロの乞食となった恩師パングロスと街角で再会。話によれば男爵と息子は殺され、キュネゴンド嬢もブルガリア兵に暴行され腹をえぐられ、奥方も切り刻まれたと告げられる。親切なジャックが治療費を払ってくれたおかげでパングロスは片耳と片目を失っただけで済む。

ジャックの仕事のためにカンディードとパングロスはリスボンへ向かうも嵐に遭遇。水夫を助けようとしたジャックが海に沈む。助けられた水夫はジャックに目もくれず見殺し。
なんとかリスボンにたどり着くと街は地震で壊滅。火事場泥棒をする水夫をパングロスは「普遍理性に背いている」と諫めるのだが、この水夫が「日本へ四回旅して四回踏み絵を踏んできた」と答えている箇所が興味深い。
リスボンの町を四分の三を破壊した地震の後、この国の賢者たちは、完全な破壊を防ぐのに、民衆に異端者の華麗な火刑を見せる以上に効果的な方法を見つけられなかった。数人の人間がとろ火で厳かに焼かれる情景は、大地の震動を防ぐのにかならず効き目のある秘策である、とコインブラの大学が決定していた。
さらっと恐ろしいことが書かれている。18世紀はまだやっと科学が芽生えた時期だけど、多くの土地がまだほぼ中世。キリスト教は異端者に容赦ない。

で、代母と結婚した罪で有罪とされた男、ひな鳥の脂身を捨てた男(巻末解説によればユダヤ人の偽改宗者として火あぶり処刑)の話を「さも賛意を示す様子で聞き入っていた」というわけのわからない罪でカンディードとパングロスは捕らえられ、地獄着を着せられ紙製とんがり帽をかぶせられる。
カンディードはなぜか鞭打ちで放免だが、パングロスは絞首刑。展開が速いし、恐ろしい。何もかもアッサリ書かれている。

ボロボロのカンディードは老婆に導かれていくと、そこには死んだはずのキュネゴンド嬢が!感動の再会と身の上話。しかし、カンディードは宗教裁判長をなりゆきで殺してしまい、逃亡生活へ。

ブエノスアイレスに逃れる。さらに追ってから逃れるためにパラグアイへ。イエズス会神父となっていたキュネゴンドの兄と再会。感動の抱擁。だが、カンディードがキュネゴンドと結婚すると告げると激怒w またしてもなりゆきで兄を殺してしまう。神父の法衣を着て逃亡。

カンディードはカカンボという従僕をカディスから連れてきいた。馬を引いてふたりは奥地へ逃げる。
ふたりの裸の婦人が猿に襲われている!と撃ち殺したら、なにやら様子がおかしい。猿は婦人たちの恋人だったw カンディードは異文化を思い知るw

イエズス会の神父と間違えられたふたりは大耳族に捕らえられ串焼き釜茹でにされそうになるのだが、現地人の言葉が少し話せるカカンボの弁明で助かる。

馬も死んで歩き疲れたふたりは一か八か小舟で川を下る。するとエルドラードに到達。道端に宝石が落ちていても誰も見向きもしない国。今までずっとカンディードの不運と不幸、地獄のような災厄と人間不信のオフビート流転の急展開だったのだが、ここでほっと一息。地獄のような世界から理想郷へ。

カンディードはエルドラードで暮らせば幸せなのに、キュネゴンドを忘れられない。財宝をいっぱい積んで会いに戻る。だが、そのほとんどはあれよあれよと失われていく。強欲なペテン師が多すぎる。(この本を読んで、今もヨーロッパにペテン師が多い理由がわかったw)
途中で虐待により瀕死の黒人奴隷と出会い、カンディードは楽天主義と決別。カカンボも行方不明。

厭世哲学者マルチンと出会う。ふたりでイタリア、フランス、イギリスを旅して回る。
カンディード「この世界とはなになんだろう」
マルチン「恐ろしく狂った、いまわしいなにかですよ」
カンディード「イギリスの人々はフランスと同じくらい気が触れているのですか」
マルチン「別種の狂気といったところです」
という会話に笑った。やがてついにコンスタンチノープルで変わり果てたキュネゴンドと再会。そしてカカンボとも再会。しかも、絞首刑にされたパングロスも生きていた!

エルドラードで得た宝石を湯水のように使って、奴隷にされていた死んだはずの神父、老婆、そしてキュネゴンドを救出。(宝石を金に換えるとき必ずユダヤ人が登場している)
結局、カンディードは醜い姿になっていたキュネゴンドと結婚し、小さな畑だけが手元に残った。

なんだかとても深い話だった。読んでよかった。18世紀ヨーロッパ世界を風刺しているので、きっと世界史知識が豊富な人はもっと楽しめる。そうでなくても一度読んでみることをオススメする。

岩波文庫版にはその他5作品収録されているのだが、どれもカンディードほどにはピンとこなかった。世界史の知識が必要。「ミクロメガス」は土星人やシリウス星人の登場するSF?!

だが、「ザディーグ または運命」は古代バビロニアが舞台なの?千夜一夜物語っぽい。頭の良い主人公が妬みで理不尽な目にあったり、女に裏切られたり、わけのわからない理由で突然奴隷にされたりする冒険。人間が幸せになることは古代でも難しい。
物語として深みを感じた。たぶん「カンディード」と同じぐらい面白い。

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