2020年11月6日金曜日

横溝正史「人形佐七捕物帳傑作選」

横溝正史には人形佐七という捕物帳名探偵ヒーローのシリーズもあることは高校時代から知っていた。だが、一冊も手に取ったことがなかった。
一昨年秋にBOで100円で手に入れた平成27年角川文庫版「人形佐七捕物帳傑作選」(縄田一男編)をようやく読む。

捕物帳系の時代小説や時代劇はまったく見たことがない。自分に合ってるのかわからない。講談社の「定本人形佐七捕物帳全集」は全8巻、春陽文庫「人形佐七捕物帳全集」は全14巻におよぶ。なかなか手に取る気が起こらない。
選集は7本の短編を収録。入門編として適切なボリュームなのでこいつを連れ帰って積んでおいた。

では順番に読んでいく。

羽子板娘
神田お玉が池の岡っ引き佐七は22歳。顔が人形のようにキレイで端正なので人形佐七。文化12年正月に起こった羽子板にも描かれた江戸三美人の連続殺人事件。
驚いた。最初に読んだ1本から面白いw 捕物帳って、お涙ちょうだい人情モノというイメージしかなかった。さすが若い頃から海外ミステリーばっか読んでいた横溝だ。ドイルやクリスティーのようにあっさりドライ。佐七親分は的確に事件を見抜いて一直線急転直下、物的証拠と真犯人に向かっていく。現代人が読んでもホームズやポアロ並みに面白い。現代的。

開かずの間
女郎部屋での毒殺(自殺?)事件。これは登場人物が多く展開が速いのでしっかり読まないと置いてかれる。佐七が金田一さんのごとく隠れた関係を見抜き真相を予想。動機も従来の捕物帳らしくない。怨念でありながらドライ。

歎きの遊女
飛鳥山の花見で起こった殺人事件。お粂が佐七の妻となるエピソード。

蛍屋敷
葛籠の中から蚊帳に包まれた女の死体、そして大量のホタル。佐七の子分「巾着の辰」の大阪からやってきた子分うらなりの豆六が初登場。やりとりが落語。

お玉が池
佐七親分がなぜか俳句に凝り始めている。お粂、辰、豆六も真似し始める。最初から面白い展開。青蛙宗匠のためにしつらえた庵での幽霊目撃、千両箱盗難事件、女中の斬殺、池の底から白骨死体、などなど、通常の捕物帳とは異なる横溝世界。ほぼ現代的なセンス。これもすごく面白い。

舟幽霊
江戸の資産家宅での宴会に招待された佐七たちが女の死体を発見。死後につけられた様々な種類の外傷が…。これも佐七の名推理!意外な真相!
これも超絶面白いw とても文化文政年間の人に解けるとは思えない本格ミステリー。

梅若水揚帳
梅若という大道芸人が雪だるまの中から全裸死体で発見される、およそ江戸の時代小説らしくない事件。
この梅若という美少年が、江戸じゅうの女たちとの情交を詳細に記録に残していたから質悪い。(この設定は「悪魔の百唇譜」でも見た)
そして、梅若殺害の容疑者に上がった3人の女までも雪だるまの中から死体となって発見される猟奇連続殺人。怖い。

豆六が文化文政年間にあったとは思えない言葉を使う。「契約違反になりまっせ」「ちゃんとアリバイがおまっせ」
エロと猟奇の横溝らしい作風だが事件の顛末記という感じで佐七親分はそれほど活躍していない。

初めての人形佐七で自分に合うか不安だったのだが、結果すべて面白かった。
「羽子板娘」「お玉が池」「舟幽霊」は特に好き。暗記して高座で話したい。人形佐七だけをネタに持つ噺家になりたい。扇子の替わりに十手を持ちたい。

巻末解説によれば、上諏訪療養中の横溝に捕物帳を書くように勧めたのが乾信一郎。昔も今も時代小説は手っ取り早くお金になるらしい。

人形佐七はこれまで嵐寛寿郎、小泉博、若山富三郎、中村竜三郎、林与一、松方弘樹、要潤が演じてるらしいのだが、自分はどれも一度も見たことがない。横溝先生は林与一テレビシリーズを気に入っていたらしい。

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