江戸川乱歩「吸血鬼」を読む。1987年春陽文庫版の2003年第16刷で読む。昨年2月にそこに100円で売られていたので確保しておいた。
報知新聞に昭和5年9月から昭和6年3月まで連載されていたもの。自分はもうすでに乱歩の連載長編がそれほどクオリティ高くないことを知っている。
塩原温泉の旅館でふたつのワイングラスを挟んで対峙するふたりの男。25歳ぐらいの美青年が三谷。35歳ぐらいの面長中年が岡田。ひとりの婦人(倭文子)をめぐっての決闘。どちらか一方に毒が入っている。岡田は毒の入ったグラスを知っている。
三谷はどちらかを選んで一気にあおる。すると、岡田がガタガタ震えて顔面蒼白。どうやら三谷は勝ったらしい。岡田が口をつけようとするグラスを三谷は叩き落す。もう自分は勝ったのだから、この勝負を続行する必要はない。
屈辱を感じた岡田は、首が斬られたように手を加えた三谷と倭文子が一緒に写った写真を残して立ち去る。
これも他の乱歩長編のように、奇怪な老人(くちびるのない男)が現れ、倭文子の前の夫との6歳の息子茂が誘拐されたり、屋敷で殺人事件が起こったり、旧両国国技館で大捕り物があったり、アドバルーン風船で怪人が漂ったり、ボートチェイスがあったり、石膏像の中から女性の死体が出てきたり、棺に入れられ火葬場に送られるという恐怖があったり…というなんでもあり展開。
半分ほど読んだ段階で読者はなんとなくこいつが犯人だろうなと勘づく。
そして異常に残虐で執念深い復讐の物語。最後にはまさかのアレが登場。乱歩によく見る要素のてんこ盛り。
名探偵明智小五郎がなぜか「しろうと探偵」と呼ばれている。まだ駆け出し探偵?ラストの真相開示の演出が何をやってるのかわからずイライラする。
ちなみに、この作品が小林少年初登場。前作「魔術師」で登場した文代さんが明智小五郎の恋人ということになっている。
まあ、面白いっちゃ面白いと感じる人もいるだろうけど、スレまくった現代人が読むとやはりどこか時代的で微笑ましさすら感じる。自分としては他の乱歩よりはいくぶんマシな質の面白さだった。
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