有栖川有栖の長編デビュー作「月光ゲーム Yの悲劇 ’88」(1989)の創元推理文庫版(1994)をやっと見つけられたので読む。ほぼ新品同様のキレイな1冊だった。100円ゲット。
自分が手に入れたものは1999年の第21刷(!)。版を重ねて売れ続けてる名作という扱い。
おなじみの江神部長と英都大学推理小説研究部の有栖川、望月、織田の4人が長野まで山キャンプに出かけ、火山噴火と地震に遭遇し退路を断たれ、しかも連続殺人に遭遇するというクローズドサークル展開。エラリー・クイーンに傾倒する著者ならではの正しい新本格。
これ、最近だと創元推理文庫のミステリーフェアで浜辺美波がオビに「ひと息で読んでしまうくらい面白い!」と書いていた。若者にも読まれてるっぽい。設定が「屍荘の殺人」っぽい。
山の中腹のキャンプ場で江神とアリスらは他大学の登山キャンプ学生たちと出会い、夜はゲームしたり歌を歌ったりと学生らしい交流をする。楽しさのあまりアリスはもう1日滞在を伸ばす。だが翌朝、神戸から来た短大生のサリーと呼ばれる女子がいない。「先に帰るわ」とメモ書き。
そして法学部学生のナイフで刺された死体発見。地面に「Y」と読み取れるダイイングメッセージ。
そうこうしてると突然前触れなく火山が噴火!噴石が飛んできて逃げ惑う。
登山道が大規模に崩壊で下山できない。山の上に取り残されてしまった。
江神らはそんな極限状況で犯人を推理。全員の身の回り品を調べたりするしか捜査方法はない。
夜にまた噴火する。するとまた一人行方不明。そしてまたナイフで刺された死体。スケッチブックにまたしてもyの文字。もう食料も尽きた。決死の下山へ。
登場人物が多すぎのように感じた。大学生は名前でしか区別がつかずキャラをつかみにくい。結果誰が誰だかわからないまま終わりがち。
その点でクリスティは大抵の作品で登場人物パターンは同じ。お屋敷の当主、息子、娘、甥、姪、弁護士、医者、庭師など、キャラをつかみやすい。
ラストのわずかなページで江神探偵が犯人を指摘する。
2番目の殺害での犯人の行動。河原への道に落ちてるマッチの燃えカス、そのへんのロジックは美しい。だが、現実問題としてはイメージしずらい。
ダイイングメッセージに深入りしないのは正しい。その真相はそれほどのものでもない。
この状況で得た情報のみからロジックで導き出した答えなので動機もなにもわからない。
で、真犯人の告白。この動機が納得しがたい。正直、ほとんどの人が「は?」という顔になったかと思う。ピンとこないし弱い。大学生ってそんな短い間に殺人につながるほどの運命の恋に落ちるものなの?
さらにもう一点。自分はフィルムカメラを使い倒してるのでわかるのだが、アレの隠し場所としてカメラを使うのはムリじゃないか?と思う。
フィルムがちゃんと巻き上げレバーに噛んでスプロケットを通ってる時とそうでない時の指の感触の違いに気づかないカメラマンは、自分の感覚からすれば考え難い。
微妙な装填ミスで失敗写真につながりかねない時代のカメラなら、指の感触や音につねに最新の注意を払いながらシャッターを切る。
学生たちが登山届を出してないのはアレだが、遭難を知らせるのに「狼煙」を焚いたりしないわけ?それに夜間は展望台から懐中電灯で点灯消灯を繰り返したりしないの?
これをもって有栖川有栖の英都大学推理小説研究部シリーズの長編4作はすべて読み終わった。
自分としては「孤島パズル」>「双頭の悪魔」>>「月光ゲーム」>「女王国の城」という評価。
これをもって有栖川有栖作品は卒業しようと思う。
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