サイモン・シン「宇宙創成」(2004)を10年ぶりに読み返した。買って積んである本はまだたくさんあるのだがこいつを読み返す。青木薫訳平成21年新潮文庫の上下巻。
太古の昔、人類は夜空を見上げて神話世界を星座に当てはめていた。万物を構成する物質などを勝手に推論していた。
だが、最初の画期的な一歩は、エラトステネスがアレクサンドリアの南にある井戸が夏至のときに底まで陽の光が照らされることから、三角形の比を使って地球の円周をおよそ4万㎞と推測したこと。空想するのと数学を使って科学的に推論するのとではまったく違う。
ここから月の大きさや月までの距離、太陽の大きさ、太陽までの距離が次々と予想されていく。
そしてプトレマイオスの天動説とアリスタルコスの地動説。これは後にコペルニクスが地動説を確信。ここでなんとなくしか知らなかった「オッカムの剃刀」という言葉の意味を知った。
だが、地動説は観測結果との整合性が低い。ここでティコ・ブラーエとヨハネス・ケプラーが登場。
ティコの天文台にはデンマーク国民総生産の5%以上が費やされたという。これは研究機関への助成金としては世界記録。まじ?
この人は決闘で鼻を失い義鼻をつけていたため、観測機器にぴったり目をつけることができたそうだ。
あと、自分はケプラーが惑星の周回軌道を真円でなく楕円じゃね?と初めて主張した意味と価値を今までよくわかっていなかった。ああ、そうか。楕円だと位置によって速度も変る。人類が宇宙を知っていく歴史において画期的。
そして、ガリレオは望遠鏡を使って観測を始める。時代は中世。ローマ教会がいちばんえらい。「それでも地球は廻っている」
次に、光の速さは無限か?有限か?という論争。デンマークのオーレ・レーマーが木星の衛星イオの食の予測と観測結果から19万km/sという数値を導き出した。
そしてアメリカ人アルバート・マイケルソンが光の速度を約30万km/sであることを確認。
そして、光が真空中も伝わるのは何故か?当時はエーテルという物質が想定されていたのだが、マイケルソンとモーリーは実験でその存在を否定。
エーテルの否定を論理で導いていたのがアインシュタイン。一般相対性理論によって時間が伸びたり縮んだりするらしいと言い始める。
太陽のような強い重力が実際の星の位置と観測値がずれることを日食写真からアインシュタイン予想を証明したのがアーサー・エディントン。そして世界中で観測した調査隊の物語が感動的。
アインシュタインは静的で永遠な宇宙を想定するために宇宙定数を持ち込んだ。これが天才の犯した間違い。
宇宙定数を持ち込まない膨張する宇宙を数学から導いたロシアのアレクサンドル・フリードマン、ベルギーの聖職者で理論物理学者ジョルジュ・ルメートルのビッグバン宇宙モデルを想定。当時世界一の権威となったアインシュタインは膨張変化する宇宙論を完全無視。
パルサーを発見したジョスリン・ベル、天王星を発見したウィリアム・ハーシェル、「信じられないほど遠くにある」としかわからなかった白鳥座61番星までの距離を測定したフリードリヒ・ベッセルらを讃えて第3章へ。
マゼラン星雲は天の川銀河の内側にあるのか?さらに外側の遠くにあるのか?距離が遠すぎてわからない。
写真の発明、変光星を研究したヘンリエッタ・リーヴェット、巨大望遠鏡で観測を続けたエドウィン・ハッブルらの功績によって、宇宙にはいくつもの銀河が存在することがわかった。
そして分光器による吸収線の発見によって、その星の構成元素がわかるようになった。そして光のドップラー偏移を調べると赤方偏移してる星雲が多いことがヴェスト・スライファーの観測で判明。遠くの星雲は近くのものより速い速度で遠ざかってる「ハッブルの法則」が判明。ここでルメートルとフリードマンの膨張する宇宙モデルが再浮上。
宇宙の時計を逆さに回すとどうなるか?宇宙創造の瞬間があったのではないか?というところで上巻は終わる。
下巻第4章は「宇宙はどうして水素とヘリウムばかり多いのか?」という疑問に答えるために、19世紀末から原子物理の発展に貢献した学者たちのおさらい。主にラザフォードの功績をたたえる。
1940年代にになるとガモフ、ハーマン、アルファーらが初期宇宙を陽子、中性子、電子の高密度からなるスープのようなものと想定。(ジョージ・ガモフという人が個性が強くて面白い)
しかし、ビッグバンによって水素ヘリウムよりも重い元素はつくられるのか?
ビッグバンからプラズマだった宇宙は30万年後に初めて光が進めるように透明になった。このときの宇宙のこだま「宇宙マイクロ波背景放射」を観測できればビッグバンが実際に起こったと証明できるだろう。だが、誰もそんなことできないし、誰もやってくれない。ガモフ、ハーマン、アルファーはみんな転職…。
その一方でフレッド・ホイルらは、宇宙が膨張していることと矛盾しない定常宇宙モデルを提案。宇宙は永遠の昔から存在する。ビッグバンだと宇宙の年齢よりも星のほうが古いという欠点がある。
ちなみに「ビッグバン」というネーミングは定常宇宙モデル派がビッグバン派をバカにして付けた名前。双方がののしり合う。
だが、ビッグバンモデルの弱点は水素ヘリウムより重い炭素原子が生まれた説明がつかないこと。人間原理のようなアクロバティックな思考からこの謎を解いたのがなんと定常宇宙論のホイルだった。
そしてベル研究所のジャンスキーが電波天文学というジャンルを開拓。
ケンブリッジ大のマーティン・ライルは電波望遠鏡で初期の若い銀河の分布がビッグバンモデルに合うことを確かめ、ベル研究所の技術者ペンジアスとウィルソンが宇宙マイクロ波背景放射を検知。
そしてCOBE衛星が波長の10万分の1レベルで「ゆらぎ」が存在することも検出。結果、ビッグバンモデルが定常宇宙を圧倒。
以上、人類が地球の大きさを計ってからビッグバンモデルに到達するまでの歴史。さすがサイモン・シンだわ!ってゆう読み応え十分の圧倒的な面白さ。
著者は最後にアウグスティヌス「告白」から引用して本を終える。
「神は天地創造以前は何してたって?そんな質問をするやつのために地獄を作ってたわ」w
時間も空間もない宇宙誕生以前のことはわかりようがないわ。
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