新田次郎「昭和新山」1977年文春文庫版で読む。6本の短編を収録した一冊だが、これは今は絶版っぽい。
表題作の「昭和新山」は10年ほど前に全集で一度読んでいる。今回また読み直してみた。
「昭和新山」(文芸春秋 昭和44年1月号)
太平洋戦争末期、洞爺湖付近の畑に突然吹き上がって誕生した火山の記録を取り続けた有珠郡壮瞥の郵便局長の話。
国民の士気が下がると軍によって秘匿されつつ、火山のスケッチを取り水温を計り、世界史上初めて新生火山の成長を見届け観察研究した三松正夫氏をモデルにしたノンフィクション。淡々と即物的に書き綴る。地学を学ぶ中高生にオススメしたい。
「氷葬」(オール読物 昭和45年9月号)
そのタイトルから重厚な文芸作品を連想していたのだが読んでみて驚いた。なんとテーマは南極探検とダッチワイフ。信じたくないかもしれないが本当だ。
南極観測隊の隊長に任命された青柳隊長は専門部会の席上で「越冬隊員たちのセッ〇スはどうするのか?」と質問され激しく困惑。「性の問題は怖ろしいものだ。おれは戦争中、おおぜいの若い兵隊を扱って充分そのことを味わわされた。」「……。」
悩んだ末に、保温式洗滌式人体模型仕様書なる書類を作成し業者に発注。検品の末に納品。官費によって購入し南極へと運ばれるも、一度も「使用」されることもなく忘れ去られていた。
だが、記録的に暖かい夏、雪の下からその人形が見つかる。「女の死体か?!」と驚いた隊員が隊長に報告に行く。そして隊長は真相を語り始める。そして、氷の海へ投棄するという話。
まだ従軍経験者が多く生存していた時代。従軍慰安婦の記憶が多くの人に残っていたのかもしれない。当時の偉い人たちは若く健康な隊員が女に触れないまま1年を過ごすと頭がおかしくなる…と信じていたらしい。
読んでいる途中でこれは本当にあったことか?と疑問に思った。もし本当なら南極観測の歴史において著しく不名誉。
あったかもしれないフィクションを、生真面目な文体でお役所仕事への皮肉とアイロニーの短編文芸作品。女の子には読ませたくないw
「まぼろしの白熊」(小説現代 46年3月号)
シロクマは北極圏にしかいない。だが、日本で白い熊が目撃されたという。それはツキノワグマのアルビノではないのか?男女の痴情も交えた熊捕獲作戦のゆくえ。
「雪呼び地蔵」(別冊小説新潮 昭和45年春季号)
女性3人が吹雪に遭難し疲労凍死する、新田次郎らしい短編。
「月下美人」(オール読物 昭和46年6月号)
国文学者の主人公の沖縄へのセンチメンタルな旅。戦前から戦後、そして沖縄の本土復帰を描く。
「日向灘」(オール読物 昭和46年2月号)
宮崎の観光開発会社に勤める男が、視察に来た浜で、貧しい姉妹と出会う。浜を不法に占拠する家に病気の父とキャバクラ勤務継母と極貧生活。やがて最悪のバッドエンド。
ちなみにこの海岸は「日向坂で会いましょう」という番組でロケをやった場所。
以上の中でオススメできる短編はやはり「昭和新山」「氷葬」。
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