2019年12月4日水曜日

三上延「同潤会代官山アパートメント」(2019)

三上延「同潤会代官山アパートメント」(2019 新潮社)という今年の3月に出た本があるので読む。
三上延は「ビブリア古書堂の事件手帖」の作者として知られる作家。この本はどうも人情ドラマっぽくてつまらなそうな予感もしたのだが、平易で読みやすいのでサクサクっと読み終わった。

大正から平成へ。関東大震災から阪神大震災まで、同潤会代官山アパートメントに暮らす竹井家・杉岡家4世代に渡る、戦前、戦中、戦後、そして60年代70年代80年代90年代、それぞれの時代を舞台にした人間ドラマ短篇集。どれも淡々としてアッサリ薄味。

読んでみた結果、これは自分とは合ってなかった文芸作品。同潤会アパートについて、なにか人に教えたくなるような蘊蓄はいっさい得られない。

2019年の現在から、すでに知ってる過去を回顧したレトロ趣味人間ドラマ。三谷幸喜脚本ドラマ「わが家の歴史」の面白くないVer.という感じ。
もちろんこういう作品で「感動した!」と言える読者もいるかもしれないが、自分としては読んでみてとくによかったということもない。

太宰治や横溝正史で昭和にどっぷり浸ってる自分からすると、この本で描かれるドラマは理想的に美しい昭和。小説やドラマ、歴史資料で見て描いた空想にすぎない気がする。
代官山アパートに入居早々、管理人にアパート規則の件で怒られる場面があるが、昭和初期の東京人の言葉遣いはもっと汚かったはずだ。世間はもっと世知辛い。

当時の人々はこんなことしてたの!?とか、東京人はこんな下品な言葉を使ってたのか!?とか、こんなに人権意識が低かったの?!とか、そういった驚きは同時代に書かれた小説を読んだ方がきっといきいきと理解できる。
この本の台詞では時代の言葉遣いや息遣いを感じられない。デジタル機材で撮影された昭和ドラマにすぎない。

いきなり震災で妹を亡くすのだが、それ以外で貧困やら人権軽視やらの酷い時代の側面はほとんど見えてこない。大学受験が過酷だった時代なのにそれが一切描かれない。わりと恵まれた家庭の幸せなホームドラマ。

自分、同潤会アパートというと表参道にあった同潤会アパートしか見たことがない。代官山はわざわざ買い物に出かけるような場所でもなかったし。ちゃんと写真とか撮っておくべきだったと後悔してる。

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