2019年10月28日月曜日

ケネス・ブラナー版「オリエント急行殺人事件」(2017)

ケネス・ブラナーが監督とポアロを務めた「オリエント急行殺人事件」(20世紀フォックス 2017)をようやく重い腰をあげて見た。

日本語吹き替え版で見たのだが、なんとポアロが草刈正雄w うそだろ。だが、この草刈さんの声がとても心地よい。次回作もぜひ草刈さんでお願いしたい。

ドラマ冒頭から原作にまったくない娯楽要素を盛り込んでる。エルサレムでささっと事件を解決するシーンがある。なんだこりゃ?自分としてはこういうの要らない。それにポアロがかなりキャラ変してる。

個人的にこの新機軸ポアロが嫌いじゃない。口ひげが今までポアロを演じたどの俳優よりもでかい。こっちのほうが原作イメージに近いの?!これまで多くのポアロ作品を活字で読んできたけど、どんな髭なのか?それはまったくわからなかった。
斜め後方から見たポアロがとても若く見える。ポアロが史上空前に身軽で動きが早い。アクションっぽい要素も。

ジョニー・デップ悪漢アメリカ人ラチェットが初登場するシーンからもう千葉真一か藤竜也。
この映画は駅の雑踏シーンで登場人物たちのだいたいの紹介を済ませてしまう。ハンガリーの伯爵が明らかにイっちゃった目つきの怖い人なのに気安く話しかけていきなり写真撮るやつなんなの。しかもこの伯爵がまるで総合格闘技家。
列車会社重役もイメージが違いすぎる。乗客たちの職業も民族もキャラ変。逆張りともいえる大胆な設定変更。いろいろと嫌な予感。

雪のバルカン半島CGがまるで魔界。列車を停止させる雪崩がただごとでない。脱線事故?!「死にましたか?」w ボイラーが動かないと極寒で凍える寒さになってしまう。

ラチェットの部屋に異常を感じたポアロがドアノブをステッキで破壊するシーンは「ええぇえぇ?!」って思った。ポアロ強ええ。ここから暫く天井カメラ映像になる。

フィニー版とは時代が変わった。乗客のひとりである医者が黒人俳優だ。船乗りたちにちゃんと定刻に出向できるかどうか尋ねている場面が荷役人に指示してる現地人に見えてしまう問題が発生。
しかもこの黒人青年がフィニー版でショーン・コネリーが演じたアーバスノット大佐。しかも医者にキャラ変。

船上でミス・デブナムとアーバスノットの重要な会話をポアロに聞かれるシーンが自分のイメージとまったく違う。この物語の構造上、医師は中立な立場で視聴者に的確に情報を与えないといけないのに、この役回りはどうなの?フィニー版のポアロ、ブーク、コンスタンチンのトリオがユーモアがあってよかったのに、ここも変えちゃうんだ。この映画はずっとシリアスでウエット。

証言へ斬りこんでいくポアロの目と口が鋭い。畳みかけるように質問する。原作のポアロはユーモラスな風貌で相手を油断させて証言を引き出すのに、この映画では容疑者たちを追い込んでいく態度が強くて厳しい。まるで現役で一線で活躍する刑事みたいにテキパキ動く。

あとポアロにはカトリーヌという心の恋人の存在が?!このポアロは事件の真相にかなり悩んでる。
そして除雪作業が終わると列車が動き出す。ユーゴスラビア警察が現場に介入するリミットがある。思っていた以上に考え抜かれたストーリーの書き換えかもしれない。

ポアロが狙撃され腕から血を流すシーンは初めて見る要素でびっくり。それどころか何もかもまったく新しいエルキュール・ポアロ像すぎてびっくり。
あの真相開陳場面は見せ場だったけど、ちょっと湿っぽすぎてあまり好きじゃない。音楽のせいかもしれない。

この映画、2017年になって初めてオリエント急行殺人事件に触れた人にとっては面白かっただろうと思う。
そして、原作を読んでる人、フィニー版を見て事件の構造をすでに知ってる人は混乱しつつも、ああ、そう変えたんだ…って思いながら見るまったく新しい別物の2017年版オリエント急行殺人事件だった。

フィニー版のラストで乗客たちが大喜びしてるのもどうかと思ったけど、ブラナー版の真実と正義への向き合い方もどうかと思うしキレが悪すぎる。
犯行時刻のトリックをまるまるカットしてしまい、本格推理もの感がなくなったのも痛い。結果、あまり好きじゃない。たぶんもう見返さない。
結局やっぱり一番はクリスティの原作だ。クリスティの文体が一番アッサリしてる。

ラストでポアロはエジプトでの事件に呼ばれるのだが、「ナイルに死す」もポアロ休暇中に起る事件だったはずだ。一体どこまで改変を広げていく気だ?

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