西尾維新「掟上今日子の家計簿」(2016 講談社)という本をついきまぐれで手に取った。
西尾維新という名前はよく目にしている作家なのだが、いままで一度も手に取ったことがない。らぶんラノベ作家。
ガッキー主演で「掟上今日子の備忘録」というドラマもあったし、ちょっと関心あった。ドラマは録画したもののまだ見てないw 第2話だけ録画に失敗して、見始める気力がわかない。(はやく再放送してくれ)
このシリーズの探偵・掟上今日子は忘却の探偵。記憶が1日でリセットされるという特殊な設定。
つまり、本はどこから読み始めても毎回初回読者を相手にしているようなものらしい。そこに気づいて本を読むモチベが湧いた。
掟上今日子シリーズは今のところ全11巻が出ているようだ。文庫はまだ2冊しかない。文庫化を待っているのもなんだし、思い切って読んでみることにした。
この「「掟上今日子の家計簿」は4本の短編作品から構成されている。では最初から読んでみる。
第1話「掟上今日子の誰がために(クイボノ)」45P
吹雪で客が足止めされた山のペンションで一人旅のOLが撲殺された事件。刑事が置手紙探偵事務所の掟上今日子を現場に呼び出して事件を依頼。
簡潔にその世界観を示してくれるので、初心者の自分にもその世界観へスッと入り込めた。クローズドサークルなどの探偵推理小説マニア用語の解説などもやさしくしてくれる短編。
客たちの滞在費を負担できない警察から、正午のチェックアウトまでに事件を解決することを依頼される。探偵料金の交渉などしていて驚く。しかも、特急料金のようなものまで。
自分、完全にガッキーで脳内再生。この女探偵が化け物のように頭がいい。刑事から事件のあらましを聞いて部屋を見ただけでほぼ事件解決。容疑者を見てすらいないw
アイデア一発の短編。なかなか面白かったので読み進める。
第2話「掟上今日子の叙述トリック」95P
音楽サークルの合宿所でミステリー研部長が「グランドピアノで撲殺」されて発見。握られたスマホには叙述トリックの名作といわれる「XYZの悲劇」の表紙が表示されていた。
叙述トリックというものがなにもわからない刑事が、掟上今日子に叙述トリックって何?と教えを請う。
この掟上今日子女史の講義がすばらしい!これほどユーモアを交えて優しく丁寧に叙述トリックの全パターン13種類+1を解説した文章を他に知らない。ここを読んで自分は西尾維新という作家を尊敬し始めた。
この本はできれば数多くのミステリーに接してから読んだほうが楽しめそうだ。担当刑事が悉く見当はずれな質問とツッコミをする。たぶん推理小説に慣れた読者はイライラしまくるのだが、掟上さんは終始優しくわかりやすく丁寧に突き放さずに説明。
そもそもこんなにカンの悪い男は警察官の採用試験にも受からないだろうし警部になんかなれない。それどころか現代文入試問題も解けないだろうと思う。
掟上さんは寝るとそれまでの記憶を失うので、必要な情報を手や足の肌にサインペンで記入しておく。それだけで謎を解く。あたまが良すぎる。
この短編は短編推理小説というよりは「推理小説における叙述トリック」論ともいえるミステリファン向けエッセイ。掟上今日子さんは白髪で小柄で25歳という情報を得た。
第3話「掟上今日子の心理実験」49P
掟上今日子の頭が良すぎて怖いという刑事が、家族が家族を密室で殺したらしい事件の解決を依頼する。これは担当刑事の心理を掟上さんが見抜くというストーリー。味わい深かった。
第4話「掟上今日子の筆跡鑑定」47P
容疑者Aのアリバイを確認するため遊園地での脱出ゲームアトラクションに挑戦する掟上さん。掟上さんより早く約束の場所へ行ってはならないという暗黙のルールを犯してしまい、担当刑事が掟上さんを不機嫌にさせてしまう。
これは前3作に比べるとそれほどでもないと感じた。だがそれでもやっぱり楽しく読めた。
掟上今日子は忘却してしまう探偵という変わった人なのだが、その性格はいたって善良で常識人。それでいて会話は軽妙で知的だが、刑事たちとの会話はちょっとかみ合ってない。魅力的なキャラ。
自分、今まで西尾維新という人をナメていた。表紙イラストが萌えだから買ってる人が多いんだろうとまで考えていた。文体は軽く会話主体だが、ラノベ作家という感じでもなかった。楽しめた。今後もこのシリーズを探して読んでいきたい。もうエラリーとかの短編を読んでる場合じゃないかもしれない。
この人のペンネームは英語に直すと回文になっていますね。
返信削除「クビキリサイクル」でデビューする前、講談社「メフィスト」の情報では、西尾維新は1週間で1冊書ける超新人と紹介されていました。
「戯言シリーズ」「刀語」シリーズの素敵な表紙、イラストを描かれた竹さんは「クビキリサイクル」時点では17歳だった筈。小説とイラストの天才が同時に現れたのですから、こっちはもう大騒ぎでした。最初の戯言シリーズはキャラも魅力的で、夢中で読んだ記憶があります。
でもデビュー作は本格孤島クローズドサークルものだったのに、3冊目から超能力バトル小説化し始めました。
中でも12ヶ月連続刊行された「刀語」シリーズ。(これは山田風太郎もビックリの架空時代劇) 無茶苦茶はまって小説もキャラもアニメも大好きでした。
そして赤川次郎も真っ青の筆力。登場人物の奇抜な名前と戯言のオンパレード。次々繰り出す膨大なシリーズに、とうとう読み手を脱落しました。今は定期的に夜中に放映されているアニメ化された「物語シリーズ」(こいつも膨大)を愉しんでいるだけですね。本屋で西尾氏の名前を見つけるとなんだか恨めしい気分です。
じつは掟上今日子11巻すべて読んでしまいました。今後ずっと掟上記事です。
削除次は「美少年探偵団」シリーズが乱歩パロディっぽいので読もうかなと思っていたのですが、それほど評価が高くもなさそうなのでよしておきます。他に読むべきものがたくさんあるので。
それにしても西尾維新の刊行スピードがすごい。