2018年9月27日木曜日

安部公房「榎本武揚」(1965)

安部公房「榎本武揚」という中公文庫を見つけた。こんな本の存在をまったく知らなかった。100円で購入。
中央公論に連載されたものを1965年に単行本化、1973年に文庫化、そして1990年に出た「改版」がこれらしい。

安部公房って歴史小説も書いてたんだ…と手に取った。自分、榎本武揚という人物はなんとなくしか知らない。
読み進めてはげしく戸惑った。予想していたような内容とまったく違っていたから。ジャンル的にはパラレル歴史ミステリー?!

著者は北海道厚岸で初老の旅館の主人から、明治の初めに軍艦でやって来て厚岸を占拠し、やがて雪原の奥地へと消えて行った300人の囚人たちの伝説を語り聞かせられる。阿寒の山麓に彼らだけの共和国をつくり、やがてぷっつりと痕跡を消してしまう。

この主人はかつて憲兵として義理の弟を告発して死に追いやったという過去と罪の意識を持っていたのだが、変節漢とののしられても明治政府内で出世していった榎本武揚を心のよりどころにしていた。忠誠とは?正義とは?主人のわかりにくい着地点の見えない話に著者は突っ込みまくる。まったく話がかみ合わない。

この本の真ん中3分の1が、土方を師と仰ぐ浅井十三郎なる新撰組隊士の手記を登場させる。著者の元へ、厚岸の旅館の主人から「こんなものを見つけたから読んで」と原稿用紙の束が送られてくる。そして主人は失踪したらしい。

この「顛末記」なるパートが読んでてとにかくわかりにくい。それに読んでいて、これは著者の創出した偽の資料?と疑心暗鬼。虚実が入り混じっている?モヤモヤしたまま読むことになる。なんか、フェイクドキュメンタリーを見ている感覚。

江戸を脱出し流山、壬生、宇都宮と転戦する大鳥圭介の伝習隊。あれ?大鳥って軍略がちゃんとわかってるの?土方の疑いの眼差し。
そして会津陥落、庄内藩も降伏。そして戦場は蝦夷地へ。このへんは史実をおさらいもしてくれているようだ。

これが実際にあったものなのか?それらしい資料も提示してくるのだが、ひょっとすると著者の創作?ますます混乱。

土方は殺気立った目で怒気をはらんで榎本に迫るのだが、のらりくらりとそれらしい根拠も交えながら、やたらと喋りが上手い榎本に土方は押し込められていく。

函館戦争の末に北海道共和国も瓦解。土方は戦死、榎本、大鳥らは明治政府に捕らえられる。
実は、函館での戦争はすべて、勝と気脈の通じた榎本による八百長戦争?!旧幕軍の主戦派を北海道に集めて最期の引導を渡す自作自演?榎本は最初から裏切り者?!

江戸辰口の牢にいる榎本らを、土方の仇と暗殺を企て、浅井らはあえて捕らえられて潜入。5人で捕えられれば5つある牢のどこかに振り分けられて榎本を殺す機会があるはずだ!と。
なんか、展開がまったく予想外で、時代小説としても面白くなってきた!
この本、幕末から明治の歴史をお勉強するにはまったく役に立たないかもしれない。

読む前に榎本武揚や奥州戦争、函館戦争の顛末について予備知識があったほうがさらに楽しめるかもしれない。自分はあまりそのへんの知識はなかったけど、読み終わって「ひょえ~」と声を漏らすほど面白く感じた。
時代小説を含む小説と呼んだほうがいいかもしれない。ドラマ化希望。(獄中での会話シーンが戯曲になってるらしい)

0 件のコメント:

コメントを投稿