2018年7月28日土曜日

横溝正史「姿なき怪人」

横溝正史「姿なき怪人」の昭和59年角川文庫版第1刷を手に入れた。これ、初めて見た。ジャケットイラストのセンスがやばい。100円でゲット。

編集構成が山村正夫とある。いつ初出なのか?どう改変されているのか?解説がなくて詳細が不明。
三津木記者と御子柴少年が活躍する。調べてみたら、昭和34年中一コースが初出か?

法医学博士の研究室を訪れた三津木と進少年。そこに博士の旧友の娘のシャンソン歌手から助けを求める電話が!
これ、開始17ページまで読んだ段階で「ひょっとしてコイツ、アリバイ工作してる犯人じゃ?」と思った。その通りだったw

テープレコーダーでアリバイ工作とか、12歳13歳が読むにはこれでいいのかもしれないが、今読むにはかなり物足りない。今までに読んだ横溝正史作品の中で一番印象が薄い作品だ。
死体はゴロゴロ出てくるのだが、横溝正史らしい雰囲気も薄い。少年探偵団テイストが強い。

「あかずの間」という短編も収録。主人公は家が貧しいので吉祥寺のお屋敷に預けられた小学3年生の女の子。「なんかこの家が不気味で嫌!」
これも新鮮さのない超薄味。こういう体験をしましたという報告。

だが、この本で最大の注目ポイントは巻末の山村正夫司会による横溝正史の夫人と長男による座談会「横溝正史の思い出を語る(一)上諏訪時代の思い出」だ。この時点ですでに横溝正史は亡くなっている。
初めて知ることだらけだったので、要点をまとめる

  • 孝子夫人によれば、横溝は長女が生まれたときは見向きもしなかったのに、長男・亮一が生まれたときはすごく喜んでいた。
  • 文京区小日向台→吉祥寺と転々としていた横溝一家。肺を患った横溝に上諏訪への転地を勧めたのは江戸川乱歩。
  • 上諏訪の青木医院の借家時代は隣に川島芳子が住んでいた(!)
  • ここは風呂が共同で夫人が嫌がった。
  • 肺病病みになかなか家を貸してくれない時代。小柳町は隣り合った2軒を借りるはめに。
  • このころ横溝は30歳になるかならないかの時期。
  • 「鬼火」が発禁処分になったときは多くの人に迷惑をかけたと思い悩み死のうとしていた。
  • 小柳町の借家には俳句の色紙が何枚か貼ってある屏風があり、「鶯の身をさかさまに初音かな」の句があった(!)。
  • 横溝は短気で、夫人が帰るのが遅れたとき、2階から布団やテーブルを放り投げた。
  • 主治医の若い先生と仲が良くて一緒に遊びに出かけた。豪快な芸者遊びもした。
  • 神戸・甲子園の近くで生まれた横溝は野球狂。中等野球の県大会は松本まで見にでかけたりもした。
  • 諏訪湖へ父と長男はよく釣りに出かけた。体が弱く暇だった父とは女っぽい遊びを一緒にした。
  • 息子は父が何の仕事をしてるのか知らなかった。友だちの父が鉄道員だったので仕事を紹介してもらおうとした。
  • そのころは上諏訪駅機関庫裏手に住んでいた。長女が女学校に入るために吉祥寺へ戻った。
  • 息子には自転車や真面目な童話集などたくさん買い与えた。だが、江戸川乱歩「少年探偵団シリーズ」のようなものは遠ざけたw
  • 短気な一方で気が弱かった横溝は血を見るのが嫌いだった。
  • 肺が悪くタバコを吸えなかった横溝はチューインガムを噛んでいた。当時の上諏訪にガムを噛んでるようなハイカラな人は他にいなかった。
  • 横溝はご飯に味噌汁でなく、フランスパンにハム、アスパラガスというモダンな朝食を好んだ。
どれも楽しいエピソード。横溝正史って現大阪大学薬学部卒エリートなので生活にゆとりがあるのかと思っていたけど、肺病で借家を転々とした上諏訪時代は苦労した。いつか横溝ゆかりの上諏訪を巡りたい。

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