自分は「下山事件最後の証言」を読んだことで、もう下山事件を卒業したつもりだったのだが、2009年の祥伝社文庫による第1刷がそこに100円で置いてあったので、いつか読むだろうと思い購入しておいたもの。
昭和24年7月6日未明に国鉄総裁・下山貞則氏(49)が常磐線の線路上で轢死体となって発見された事件。
自分がこの事件に初めて触れたのが松本清張の「日本の黒い霧」。読んだ当時、すぐに五反野の現場をなんとなくふらふらと歩いてしまった。もう10年以上昔の話。
この本は7月6日未明の死体発見の状況から詳しく、当時の雰囲気をよく伝えてくれる。そして総裁が行方不明になる前日以前の足取りと行動、当時の時代背景も詳しく教えてくれる。もうすでに他の本で何度もなぞった箇所だけど。
東大と慶応大の法医学部の鑑定が違うとか、もう最初からこの事件はミステリーとして面白い。生活反応の有無は?生体轢断か死後轢断か?自殺か他殺か?
死体発見現場での多くの目撃証言から捜査一課は早々に自殺説へ。毎日新聞も自殺説。死後轢断の判定をした東大が批判される。
この本を書いた矢田喜美雄氏こそが日本で初めて事件現場の捜査にルミノール試薬を持ち込んだ人物。この人のおかげで枕木の血痕が延々と荒川鉄橋方面に伸びているのを発見。さらにロープ工場にも血痕を発見。どう見ても死体は現場まで運ばれたよね?
そして総裁の衣服に大量に付着していたヌカ油、色素の謎。自殺という結論ありきの捜査一課の報告書が、証言者の発言まで適当にねつ造改竄。日本は昔から現場がその場しのぎで取り繕うの変わってないな。
自殺と即断した監察医八十島氏、遺体を見てもいない慶大中館教授、そして名大の小宮氏らによる謎の東大法医鑑定批判が理不尽。
治安をあずかる警察当局が偏見をたいせつにしたとき、その偏見を支持する御用学者というものはいつの時代にも現れるものなのだ。役人とか、識者による第三者委員会だとか、首をかしげるような判断をしてしまうのはこういうことだったんだな。どうしても空気を読んで政権側に都合のいいほうを選んでしまう。
この本を読んで「赤旗」は昭和34年まで自殺説を支持してたってことも初めて知った。
行方不明当日に自宅に電話を掛けたアリマ、オノデラの謎。総裁を誘拐した車の調査を脅迫で妨害するCICのフジイなる人物の存在…。
事件から10年経ってつぎつぎと現れる鑓水情報、石塚証言、S証言など「わたし見ました」「死体運びました」証言。総裁に情報を渡していた情報屋の線。ありとあらゆる要素ひとつひとつが闇すぎて面白い。また数年ぶりに「最後の証言」を読みたくなった。
総裁の殺害方法がとにかく残虐すぎる。これだけの重大犯罪が解明されずに、実行犯も背後の組織も判明せず、誰も逮捕もされていないのは警察の恥。国家の恥。
この本に載ってるすべての要素を日本国民は知っておかないといけないと思う。とにかくまずは松本清張「日本の黒い霧」を強くオススメ。
巻末解説を読んで著者の矢田記者がベルリン・オリンピックのハイジャンプで1m85を跳び5位入賞していたということを初めて知った。その姿はリーフェンシュタール監督の「民族の祭典」にも映ってるそうだ。
また、矢田記者は佐藤栄作にも取材を申し込み面会したことがあったそうだ。ずっと黙ったままだったらしい。
何度も脅迫を受けた矢田記者は有楽町プラットフォームで突き落とされそうになったこともあったという。
この本は熊井啓監督が映画化してるそうだが自分はまだ未視聴。NHKは未解決事件Fileで下山事件を取り上げて欲しい。占領時代の新事実は今後アメリカ側から文書開示で何か出てくる可能性はある。なんなら大河ドラマ化希望。
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