2018年6月19日火曜日

横溝正史「真珠郎」(昭和12年)

横溝正史「真珠郎」を手に入れた。昭和49年角川文庫版の昭和53年第17刷を100円で見つけた。
新青年に昭和11年から翌年にかけて連載されたもの。これ、今まで眼中になく読む気もなかったのだが、横溝正史好きはみんな読んでる作品らしいので読むことにした。

この表紙、杉本一文イラストの中でも人気が高いらしい。だが、一部では「ネタバレしてる」という指摘も。

さあ読もう!とカバーを外すと裏側に前所有者の名前と住所がでかでかと署名してあったw 住所まで書くとか、おそらく誰かの遺品だなw

大学で英文学の講師をしてる椎名耕助が主人公。同じ大学の東洋哲学講師・乙骨三四郎に誘われて、信州でひと夏を過ごすべく一緒に出掛ける。
やがてなりゆきでN湖畔で家を借りるという話になりN湖へ移動。その途中、路上で汚らしい不気味な老婆から「血の雨が降る」という警告を受ける。「八つ墓村」みたいだ。

かつて娼家だったらしい家に、50代半ばの寝たきり主人と若く美しい姪の由美の二人暮らし。だが、奥にある蔵に鎖につながれた誰かもう一人いるようだ…。
やがてふたりは謎の美少年を目撃。そして浅間山の噴火、そして展望台で主人が斬り殺される現場を目撃。洞窟水道探検すると主人の首なし死体、頭を殴られ気絶している乙骨…。

取り調べ後、東京に戻った椎名は真珠郎を目撃。やがて由美が吉祥寺の自宅で惨殺。乙骨もアパートで惨殺…。
ぜんぜん思ってたのと違ってた。なんだか展開がまったく予想できない。自分も現場で困惑してる気分。

これ、由利探偵ものなのだがほとんど目立ってない。とつぜんぬるっと闖入者のように登場。意外な真実が判明していって興奮した。面白かった。横溝正史の語り口がさすが。

最後はラブロマンス。だが、犯人の独白手紙が言葉が足りず説明不足。伏線がすべて回収されていない。そこ、由利探偵が解説してよ~ってちょっと不満。ここがもっと精度が高かったら大傑作になっていたのに惜しい…。

そしてもう1作の「孔雀屏風」(昭和15年)は伝奇ラブロマンス短編。
日支戦線に出征している従弟から送られて来た手紙によれば、百数十年前の文化文政年間から先祖代々伝わる三曲の屏風に描かれた絵とそっくりなポーズの女の写真を慰問袋の中の雑誌に見つけたので調査してほしい…という。

どうやら屏風は半分に分けられて広島尾道と東京に伝わってる?先祖に画工がいて長崎にいたころ豪商の娘と悲恋があったらしい…と、手紙のやりとりが続くのだが、これが現代人には読みづらいかもしれない。かなり古めかしい文体。戦時中まで日本人はこんな手紙を書いていた!ということがちょっと驚き。

莫大な財宝の隠し場所が記されている?盗みに入った泥棒の死体が発見!そして、遠い先祖の悲恋が現代に奇跡を起こす…というストーリー。

いやあ、横溝正史のストーリーテラーっぷりに感心。とても味わい深い短編だった。
「真珠郎」「孔雀屏風」ともに面白い。この2作が入手困難になっているとすれば惜しい…と思いきや、Kindle版で手に入るのか。
なんと今年の5月に丸善ジュンク堂限定販売で角川文庫版が限定復刻されていた!なので新刊でも手に入るという。

2 件のコメント:

  1. 「真珠郎」、「夜光虫」、「仮面劇場」は、戦後の本格の体裁を纏っていない分、横溝の趣味なのか美少年とか、耽美とか、どろどろが過剰で、面白い。
     由利先生が出てるのは「蝶々殺人事件」が唯一本格。「本陣」と同時期に書かれているので、未読だったらお勧めです。

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  2. 実は同時に「夜光虫」も手に入れました。あんまり黒に緑字の角川横溝文庫はみかけなくて「蝶々」はまだ発見できてません。もう全部復刻してほしいw

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