2018年3月6日火曜日

横溝正史「扉の影の女」(昭和36年)

「扉の影の女」の昭和50年版角川文庫(昭和63年第25刷)を手に入れた。こいつもわりと汚かったのだが許容範囲内だったので連れ帰った。100円。

もちろんどんな本かは知らなかった。ただ、金田一耕助ものなので読む。この作品は昭和30年の年の瀬の銀座が舞台。クラブホステスがハットピンで刺し殺された事件。もともと短編作品だったものの長編化したものらしい。

緑ヶ丘のアパートに事務所兼住居があるのだが、なんと金田一さんはベッドで寝ている。そして朝食はバタートースト、アスパラガスの缶詰、ウィンナーソーセージなんかを食べている。事件の依頼者とレストランで会食シーンではテンダーロインとフランスパン、コーヒー、果物を食べている。「犬神家」では米の袋持参で旅館に泊まってたのとだいぶ時代が変わった。

私立探偵金田一さんのカツカツ自転車操業な財務状況にも詳しい記述がある。
気になったのが千円札を「伊藤さん」と表現してたこと。伊藤博文の千円札は昭和38年から昭和59年ごろまでなので、文庫化のさいに改められた表現かもしれない。(そんなことしなくていいのに)

容疑者の取り調べで金田一さん「いやね、広田君、君ホモなんだってね」「ホモたあなんです」「ホモセクシャリスト、同性愛病患者、もっとひらたくいえば男色家」
昭和30年代はまだホモという言葉が一般に浸透してなかった?ヒロポン中毒など時代的な言葉も登場。

この事件当時の金田一さんは40代中ごろ。身長は「160㎝あるかないか」で、体格の立派な(といっても170㎝ちょっとの人)を前にすると劣等感を感じるという設定もあったことを知った。

金田一さんの言葉遣いとキャラにかなりブレがあるように感じた。最後に依頼者に真実を提示してるとき自分を「おれ」と云ってたのは違和感だった。

あと、金田一さんのハンサムバーテン助手・多門修も登場。

このラストと犯人は誰も予想外に違いないが、誰も満足しないだろうと思う。クリスティに匹敵するチカラワザすぎる。推理小説としては70点。
横溝正史オタにしかオススメしないが、金田一さんのことが細かくわかる点では貴重な作品。

もう1作「鏡が浦の殺人」(昭和32年)は「太陽族」も登場する夏の終わりの海水浴場のリゾートホテルが舞台。金田一さんがなんとミスコンの審査員にさせられる。

短編推理小説としては平均的な出来。2時間ドラマを1本見終わったかのような気分。
ひょっとすると、第1の殺人はクリスティ「三幕の殺人」の影響を受けている?

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