松本清張「軍師の境遇」(2013 河出文庫)を読んでみた。ほぼ新品のように状態が良いものを100円で購入。
この作品は角川文庫と河出文庫の2種類存在する。この河出文庫版は1987年角川単行本を底本として河出書房新社が文庫化したものだと巻末に書かれている。
こちらの河出文庫の表紙のほうが角川より好きなのでこちらをえらんだのだが、角川は本作の他に短編2作が収録されている。
2014年NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」が決定し撮影が始まるころ流れに乗って出版されたものか?
自分、「軍師官兵衛」はそれほど見てなかったけど、この本がドラマの内容を駆け足にダイジェスト的に、ほぼ同じ内容をカバーしてることはわかった。
あっという間に読み終わった。内容がとても平易でわかりやすくコンパクトに整理されている。巻末解説を読むと、この作品は1956年から1957年にかけて「高校コース」に連載された松本清張の少年少女向けジュブナイル歴史小説。ああ、なるほど。そうだったのか。
この小説は播州小寺家が織田につくか?毛利につくか?でモメている場面からスタート。
黒田官兵衛孝高は小寺政職というダメ上司に仕える立場。
「織田信長につくしかないでしょ?」1択。岐阜へ行き木下藤吉郎に会う。
竹中半兵衛に会う。信長側につく。
どちらにつくかで運命が決まる弱小国はふらふらとどちらの結論にもいかない。
小寺に疎まれ窮地の官兵衛は荒木村重を説得に行って土牢に監禁される。
三木城の別所長治、鳥取城の吉川経家、備中高松城の清水宗治、秀吉&官兵衛の前にたいした合戦もしないまま籠城戦。ただ最初から死ぬために存在する責任者。立派に自刃し城兵の命は助けてる。
だが、有岡城は信長によって女子供に至るまで皆殺し。有岡城の荒木村重だけは自分だけ逃げて数千人を犠牲にしてる。こいつは天正の中国戦線で特異な存在。
戦国時代随一の参謀司令官で外交上手だった官兵衛。山崎の戦い、賤ヶ岳の戦い、小牧長久手の戦いを経て秀吉に天下をもたらす。
だが、上司よりも優れた部下は嫌われる。秀吉「こいつ、頭が良すぎて気味悪い」
可愛いという感情は自身よりも知性が劣るものに対するものだ。官兵衛「しまった。やりすぎた」。40代で隠居し豊前中津へ。
少年少女向けに書かれたものなので、豊前の城井氏一族を皆殺しにしたこと、関ケ原合戦のさいに九州で暴れまわったことはまったく書かれていない。秀吉の天下統一で終わってる。
巻末解説によれば、この作品は坂口安吾「信長」、司馬遼太郎「国盗り物語」よりも前に書かれた。新しい信長像が確立する以前の、清張の信長観が見える貴重な作品とのこと。
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