2017年11月24日金曜日

立川文庫「猿飛佐助」雪花山人(大正3年)

ほるぷ出版の昭和49年「名著復刻日本児童文学館シリーズ」の6、雪花山人著「眞田三勇士忍術名人 猿飛佐助」(大正3年)という本を見つけた。
文庫本よりも小さいパスポートサイズの本。これは見た瞬間にヤバいと思ったw BOで250円でゲット。

大阪市東区博労町の立川文明堂による「立川文庫」というやつに自分は初めて接した。
「書き講談」というジャンルの文庫本。調べてみるまでその存在をまったく知らなかったのだが、大正時代に少年期を過ごした日本人なら誰でも知ってるらしい。
自分が手に入れた「猿飛佐助」は「立川文庫」の第40編。一番の人気作だったらしい。巻末には181作まで目録があるけど、ほとんどが戦国武将や武芸者や英雄。明治大正のこどもたちはこんな「講談」しか娯楽がなかった。発売当時の定価は「金弐拾五銭」。

雪花山人って誰?調べてみたらそんな作家はいなかったらしい。二代目玉田玉秀斎と、その妻・山田敬、その息子たち、弟子たちチームによる「講談を本に書き写したら売れるんじゃね」というアイデアによる出版起業。
なので音読するとそのまま講談w 文体に調子があって日本語として読みやすい。
だが、当時の印刷だとインクにムラがあってかろうじて読み取れるぐらいの薄いページもあれば、濃いページもある。ほとんど読み取れない活字もある。

猿飛佐助という人物はもちろん創作で歴史上存在しない。今も日本人に愛されるキャラクターだが、この「立川文庫」が猿飛佐助の決定的イメージを形作ったっぽい。

森武蔵守長可の家来だった鷲尾佐太夫は「忠臣は二君に仕えず」と信州・鳥居峠で郷氏として暮らしていた。その10才になる息子が佐助。

野山を駆け回って猪や鹿、猿と遊びまわっているが、摂州花隈の城主戸澤山城守の父で諸国を漫遊していた戸澤白雲斎に山の中で見いだされ、忍術を教え込まれる。夜も寝ていると「武術を心掛けて居る者が、前後を知らぬ程寝ると云うことがあるか」と叱られる。それはつらい修行だ。

やがて立派な忍術使いとなった佐助の元から白雲斎は姿を消す。そして眞田安房守の子・与三郎幸村と狩りの場で出会う。すばしっこい少年は幸村の家来になる。
三好清海入道、三好伊左入道、穴山小助、筧十蔵、海野六郎といった仲間たちとも出会う。全員あらくれ乱暴者。会話がもうまるで歌舞伎。

伊勢崎親子の件は非道すぎて哀れ。たいして殺されないといけない理由がないのに、「敵に殺させてやったわw」と幸村に話す佐助がむしろサイコパス犯罪者に見える。
それにしても鼠に変身出来たり透明人間になれる忍術は酷い。好き放題勝手放題できる。

三好清海入道がバカすぎる。現代なら東名あおり運転の犯人に相当する人物。こいつが怖い。

今日のNARUTOまで脈々と受け継がれる少年忍者成長の物語パターンを形作った作品かな?と思って読んだけど、猿飛佐助無双。だれも骨のある敵に出会わない。

山賊・由利鎌之助との対決もまったく難なく勝負がついて仲間に引き入れる。このいきさつが納得しがたい。
伊賀の忍者、百地三太夫の弟子・石川五右衛門の忍術合戦が最大のヤマ場かと思いきや、ここでも大した勝負にならない。佐助の魔法的忍術が無双。

塙団右衛門と知り合ったり、太閤殿下の御前で後藤又兵衛と鎌之助の槍試合などのエピソードを経て、霧隠才蔵との対決シーンが「石川五右衛門のときと似たものになるから」と、あっさり省略w バカなの?って思う。
「立川文庫」には「霧隠才蔵」という人気作もあるからそちらを読んでねという大人の都合か?
いや~、こいつは面白い。関ケ原の一大事にも佐助、才蔵、鎌之助はドタバタ西国漫遊記。毛利の城下でイタズラしてる場合か?!3人は昌幸・幸村親子のいる九度山へ向かう場面で唐突に終わる。
ツッコミ箇所だらけでバカバカしいけど、日々の辛い生活を忘れてスカッと爽快な気分になるための娯楽作。

角川ソフィア文庫2003年版が入手困難になってるのはもったいない。興味のある人はなんとか探し出して読め!って言いたい。「霧隠才蔵」も読みたい。

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