「災厄の町」と一緒に「エラリー・クイーンの冒険」(1934)も手に入れた。創元推理文庫(井上勇訳1961年版)の1973年第31刷というとても古い本。この時代の創元推理文庫にはスピンと呼ばれる紐が付いているんだな。
エラリーの長編はそこそこ感がし始めているのだが、では、短編はどうか?
この本には10本の短編が収録されているのだが、どれもレベルが高いように感じた。今までに読んだどの作家のどの短編集よりも1本1本の出来がよい。
おそらく「シャーロック・ホームズの冒険」をかなり意識してるらしい。読んだことないけどw
この本を読んでエラリーくんのキャラがようやくわかってきた気がする。どの作品もキッチリしすぎてる論理で犯人を指摘する。
短編は登場人物が多いと、人物名を覚えられないw 米英人はファーストネームで呼んだり、氏名で呼んだり、こいつ誰?ってなる。人物が少ないほうがストーリーをイメージしやすい。
好みは人それぞれだが、自分が読んでいて面白いと感じたのは「アフリカ旅商人の冒険」「ひげのある女の冒険」「双頭の犬の冒険」「七匹の黒猫の冒険」だ。
「アフリカ旅商人の冒険」ではエラリーくんはハーヴァードで犯罪心理学の講座を持っている。3人の学生たちを殺人事件の現場に連れて行って、それぞれに時間を与えて犯人を推理してもらう。そして最後にエラリーの到達した真実…という短編。
暖炉で燃やされた灰から犯人を、外来者か?宿泊客か?従業員か?の3つから絞り込むロジックの明確さに美しさを感じた。
「双頭の犬の冒険」は怪奇な雰囲気がいい。内容もおぞましい。本当にそんな展開になるか、ちょっと違和感もあるけど。
「七匹の黒猫の冒険」はもっとおぞましい。黒猫を6匹買った老婆が行方不明。次々発見される猫の死骸…。老婆が同じような猫を買い続けた理由が自分には思いつかなかった。なかなかの佳作。ちなみに、アパートの管理人の名前がハリー・ポッター。
あとは、「首つりアクロバットの冒険」「1ペニイ黒切手の冒険」「三人のびっこ男の冒険」「チークのたばこ入れの冒険」は、エラリーのキッチリ論理につきあうためには集中力が必要。「見えない恋人の冒険」はやや平凡。
「ひげのある女の冒険」「ガラスの丸天井付き時計の冒険」はダイイングメッセージもの。これもエラリーくんの頭のよさがわかる逸品。
だが、訳がかなり古臭い。立ち止まって考えてもわからない、訳者の時代に流行った表現がある。
「双頭の犬の冒険」に登場する元船長の「ちょっとながめたところ、チャンコロの癩病院のように真っ暗だった。」とか今はできない表現。
「そうでがす、やつは犯罪者だったのでがす」とかも可笑しい。
この本、なかなか面白かった。エラリー愛好家はみんなこの本を愛してるみたい。
エラリーは短編も佳作が多いかもしれないので今後探していく。日常系謎解きラノベとか読むくらいなら、こんな本格的短編を読むべき。
「シャーロック・ホームズの冒険」を読んでいないんですか。もったいない! ホームズは最初からの3つの短編集「冒険」「回想」「生還」までは完璧ですよ。
返信削除短編集は誰でも最初のころが素晴らしい。チェスタートンの「ブラウン神父」もホームズと同じで最初の3冊は文句なく面白いです。
「エラリー・クイーンの新冒険」の方もぜひ見つけてくださいね。クイーンの最高傑作の1つ「神の灯」が収められています。
ホームズとブラウン神父は昔すぎるからと避けてたんです。クリスティ時代の英国ですらよくイメージできなくて。冒険回想生還、いい感じの1冊と出会ったら読もうと思います。でも、先日クリスティを15冊ぐらいまとめて買ってしまいました。
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