松本清張の「白と黒の革命」という本を手に入れた。1981年の文春文庫版。108円でそこにあった。自分はこの作品が今まで全く眼中になかった。初めて存在を知った。
「文芸春秋」1979年6月から12月号まで連載されたもの。イラン革命を扱ったドキュメントノベルと書いてある。
1979年のイラン革命については自分はまだ漠然とした知識しか持っていなかった。イラン革命について学ぶために、この本を買い求めた。
松本清張は「日本の黒い霧」でアメリカ諜報機関による謀略を暴いたが、この本では、たまたまイラン人絨毯商人から「イラン革命の背後にCIAと石油メジャーたちの存在があったのではないか?」という話を聞いて、主人公の「私」が調べ始める…というてい。ニューヨーク、イランと渡り歩く。
この「私」は取材先のアテがないままに渡米。現地で建築を学ぶ留学生を通訳兼助手にして方々へ話を聴きに行く。テヘランでは商社の現地駐在員と行動。なんか、このへんがとても心もとなくて無謀に思えるw
ちなみにこの時代の国際石油メジャーのセブン・シスターズはエクソン、モービル、テキサコ、ソーカル、ガルフ、ブリティッシュ・ペトロリアム、ロイヤル・ダッチ・シェル。あとフランス石油(CFP)を入れて8大メジャー。
パーレビ国王、モサデク、ホメイニ、カーター、ブレジンスキー、ロックフェラー、OPEC、サウジ、PLO、東西冷戦下での石油をめぐる戦略ゲームとかけひき。
松本清張は池上解説よりもさらにわかりやすく中東情勢とイランについて教えてくれる。
50代以上の人にとって独裁者パーレビ国王は懐かしく聞こえるらしい。子供の頃から家にある地球儀ではイランは「イラン帝国」と記入されている。
イラン最後の王朝をパフレヴィー朝(1925-1979)というのだが、これが英国が担ぎ上げた出自の定かでない軍人のクーデター政権。日本人の感覚からするとそんな王権は何もありがたくないw ま、北朝鮮の金王朝も同じようなもんか。
そんな王朝なので国民に肖像画を飾ることを強要したり秘密警察サヴァク(SAVAK)が反体制派を徹底弾圧。
欧米石油メジャーと対抗したことは立派だが、人権蹂躙と石油からの利益を国民に還元せずせっせと海外口座に移して私服を肥やしたことでイラン国民から嫌われた。なのでホメイニ革命評議会は元高官、軍人たちの多くをイスラム法によって処刑しまくった。イスラム世界史は怖い。
傲慢なパーレビ国王を懲らしめるために、モサデグ政権を倒したときみたいにデモ隊をCIAが暴徒化させたのだが、やべえ、やりすぎた!w
このことはフォード大統領時代のCIA長官だったジョージ・ブッシュの演説でも裏がとれてるらしい。(ブッシュはのちに湾岸戦争を開始したように石油利権の代表)
イランの市民たちはパリからやってきたホメイニを熱狂で迎えた。だが、革命の熱気はあっという間に冷めていく。政治、経済、外交の素人にすぎないカリスマ老僧がイランをさらに混乱させていく。
人々は王族が盗み取っていた富が国民に分配されるようになればイランは豊かになると思っていた。
だが、行政機能は低下、産業経済が停滞していく。あれ?以前よりもさらに酷い国になってね?まずなにより女性の人権が失われた。外国人もいなくなった。どうしてくれんだよ。
でも、そう思ったのは中産階級以上の知識人だけ。文盲の大多数国民はイマーム・ホメイニの肖像画を仰ぎ見るしかない。いつのまにかさらに酷い秘密警察が生まれてたw 中世暗黒宗教国家になってたw
ホメイニはパーレビ国王以上に酷い独裁の道へ。自分に人気がないのがわかってたもんだから、自ら総司令官となってクルド人勢力掃討に国民の目を向けだす。
結局革命みたいな極端な体制の転換じゃ社会はよくならないんだなって教訓。そっちのほうがよさそう!って飛びついてもダメな例。
ホメイニは国内外に多くの敵を抱えていた。長くはもたないとおもわれていた。革命イランが今もまだ続いてるのは当時の人々からしたら予想外。
この本で清張は、第4次中東戦争の謎と解答をさらっと提示、今後の中東情勢の展望を示す。アメリカがイランに武力侵攻?
最後は「私」がスパイ容疑を掛けられクルド人勢力下からトルコへの逃避行。スパイ小説みたいになる。なんか、面白かった!松本清張がますます巨大に見えた。
1981年の文庫化あとがきを清張は書いているのだが、1979年のアメリカ大使館人質事件、1980年のイランイラク戦争にはまったく触れられていない。
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