高木徹「ドキュメント 戦争広告代理人 情報操作とボスニア紛争」(2002)の2005年講談社文庫を読む。いつものようにBOの安価文庫棚を「なにか面白そうな本はないか」と物色していてこれを発見。裏面に「講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞受賞の傑作!」と書いてある。132円で連れ帰る。
東大文学部卒のNHKディレクターによるNHKスペシャル「民族浄化~ユーゴ・情報戦の内幕~」(2000年10月29日放送)を本にしたもの。自分が手に入れた文庫は2022年27刷というから多くの読者に読まれているに違いない。
ユーゴスラビアから独立したばかりのボスニア・ヘルツェゴビナ。サラエボではセルビア人の狙撃兵たちによって多くの犠牲者が。ボスニアには石油も鉱物資源もなく、アメリカや欧州の大国にとってあまり関心のない小国。
シライジッチ外相(1992年4月就任)は単身アメリカへ渡り米PR企業ルーダー・フィン社と契約。
何らカードもなくアメリカの国益からも無関心なボスニアには同情を買うことしか戦略がない。ルーダー・フィン社のジム・ハーフという国際紛争RPの凄腕スペシャリストが風前の灯火ボスニアの運命を変えていく。
ワシントンDCでいかに連邦議会の議員たちを動かすか、メディアに取り上げてもらうために何をすべきか? アメリカ市民の世論を変えるには?
そこにハーフという老獪な戦略家、そしてシライジッチというアメリカ留学経験があって英語が堪能でテレビ映えする外相がいた。
「民族浄化 ethnic cleansing」という魔法の言葉を発明する。これによって、以後セルビアは絶対的な悪とされていく。さらに、強制収容所というマボロシもでっちあげる。セルビアは世界で孤立。最終的に国連追放決議。空爆。ミロシェビッチ大統領はハーグの戦犯法廷へ。
ユーゴスラビア連邦(セルビアとモンテネグロ)って、1992年9月22日の決議で国連から追放されてたって知らなかった。そんなことが起こってたのか。
なんだかやり口が汚いようにも思えるが、これが国際政治の世界。なんだかセルビアのミロシェビッチ大統領が可哀想にすら思える。PR企業によって仕組まれた悪のレッテルによって国際世論戦になすすべなく敗退。
セルビアのパニッチ首相ってアメリカ国籍を保持したままセルビアの首相に指名されたのか。アメリカで製薬会社のCEOだったのか。ミロシェビッチによって首相に指名されたのに国連でミロシェビッチを罵倒。それは自らが大統領になろうという野心。この人も可哀想だが悪戦苦闘の末に再びアメリカに戻って製薬業に戻ったんだから恵まれた人。
著者はところどころで日本外務省も批判。アメリカは政権が交代すると政府スタッフや官僚も交代し民間企業でもまれて強くなる。日本の官僚にはそれがないために甘い。反日国の認知戦に対抗するにはPR企業の戦略ノウハウと人材が必要。
ハーフはボスニアに「ナチス」「ホロコースト」という言葉を使わせなかった。クロアチア政府のPRを担当していたときにセルビアの蛮行を「ホロコースト」と呼ぶと、ユダヤ人から反発をくらったらしい。だから「民族浄化」と「強制収容所」という言葉を使った。
そういえば韓国・北朝鮮は以前、日本をナチスに例えたり、日本統治時代を「人類史上最悪の蛮行」とか口汚く罵ってたけど、あれはユダヤ人たちからまったく賛同してもらえなかったぽい。ユダヤ人の民意はそのままアメリカの民意。あまり効果がなかった。
ボスニアを救ったシライジッチは英雄となったが、ルーダー・フィン社としては持ち出し。報酬の請求に対してボスニアは吝い。まあ金がないんだろうけど、小切手を投げつけるように渡して以後は決裂。汚い国際政治の金はやっぱり汚い。
なんで今、ロシアは国連から追放されないんだ?早く追放するするべき。そもそもソ連が解体されたときソ連の常任理事国の議席は分裂した旧ソ連構成国で人口に比例して分配されるべきだった。旧構成国が全会一致したときのみ拒否権を発動できるようにするべき。
いや、この本、世評に高いだけあって面白かった。広くオススメする。SNS上で短期間にひどく叩かれている人は、裏で誰かが世間を誘導して叩いているのかもしれない。
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