2026年1月11日日曜日

吉村昭「闇を裂く道」(1990)

吉村昭「闇を裂く道」を文春文庫を2016年新装版で読む。7年積読してたものをようやく正月に読んだ。BOで108円購入。

静岡新聞に昭和61年4月から12月31日まで連載されたもの。昭和62年に文芸春秋社から上下巻で刊行されたのが初。
大正7年から始まり67名もの殉職者を出し、16年の歳月を要した丹那トンネル開削という難工事もの。

いつもの吉村昭のように、調べたものをただひたすら淡々と、本当に呆れるほどに淡々と列挙していく内容。その間にあった日本史トピックも列挙。第一次世界大戦もあった。関東大震災もあった。世界恐慌もあった。

さすが超絶ブラック企業大正昭和日本という過酷さに震撼。工事に入る前の地質調査が現代の水準からみれば適当。
トンネルを掘り始めてから発電所を作るのにも呆れた。水が湧き出た!ガスが出た!ちょっと待って。それって事前に予期も対策もしてないの?
ガス対策が鳥かごのカナリアって丹那トンネル工事が最初?
労務者が過酷。この時代は作業に適したウェアなどない。まだゴム長靴ですら最新。僅かな日当目当ての労務者が冷水に震える。

そして大落盤事故。家族を養うために過酷な労働に駆り出された父親が圧死したり水死したり。残された家族は取り縋るように泣く。吉村昭の本で何度も読んだ場面。

しかし、トンネル掘ってると大量の湧水に困り果てる。その量は芦ノ湖3杯分?!
そして、丹那盆地の農民たちに試練。井戸が涸れた。湧水量が激減し田んぼに水が張れない。酪農家が牛乳を冷やせない。農民たちは殺気立って筵旗を立てて建設事務所へ押しかける。

意外だったのが警官が追い払ったりしないこと。技官たちが真摯に取り合って陳情を鉄道省に伝える。函南町は年間予算をはるかに上回る補償金を得る。

この本を読むと、なぜ静岡県知事がリニア新幹線に反対したのかよくわかる。たぶん丹那トンネルの工事で湧水の流れが変わって農民が困窮する姿を古老たちから語り継がれたんだろう。
そんなこんなを教えてくれるノンフィクション。それにしても吉村昭の一切の私見や感情のなさは異常。

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