アントニイ・バージェス「時計じかけのオレンジ」完全版(1962)を乾信一郎(1906-2000)訳の2008年ハヤカワepi文庫トールサイズ(2010年4刷)で読む。
これはコロナ期に55円で売られているのを見つけてすかさず確保しておいたもの。3年積読本をようやくこの秋に読む。
キューブリック監督の映画(1971)を見たのでだいたいの話は知ってる。なのでなかなかページを開こうと思えなかった。今読んでみると、キューブリックの映画は原作にほぼ忠実。だが、主人公アレックスは原作だと15歳になっている。もっとずっと年上にしたキューブリックは正しかった。じゃないとローティーン少女との性交などは映画にすることはできない。
それにしてもアレックスが粗暴。路上強盗で老人をボコボコにしたりしたあげくに住居侵入と強盗で老婆を殺害してしまう。懲役14年の判決。15歳で刑務所へ。
映画は刑務所に収監されるということがシャレになんない事態なんだなと気づかせてくれる映像と演出だった。60年代英国は国力と経済力の低下から治安の悪化になすすべなかった時代。社会の目も犯罪者に厳しい。獄舎の環境が劣悪。
で、青少年の厚生を目的とする行刑としていかがなものかと政治の側から口出し。アレックスは人体実験のような更生プログラムで暴力的なものに不快感を感じるように改良。大好きだったクラシック音楽も嫌悪。
出所後のアレックスが憐れ。かつて強盗に入った作家の家にたどりついてしまう箇所は読んでてほぼホラー。アレックスがそうなったのはすべて選択の結果。シビアな現実。
アレックスがずっと意味不明なスラングを使ってる。これは実際に60年代英国で使用されたものでなくロシア語っぽくしたバージェスの創作。文中に登場するクラシック曲の作曲家名もたぶん創作。
ちなみにこの邦訳には「完全版」とある。英国で出版されたときアレックス出所後の第3部は全7章だったのが、米国版は出版社からの要請で第7章がカットされた全6章版となった。アメリカ人からすると第7章がとってつけたようなハッピーエンドに思えたらしい。
早くから邦訳が出た日本では全6章ハヤカワ文庫旧版(1971)と作者の当初の意図を汲んだ全7章版(1980)が出回った。それぞれの読者の間で感想に齟齬が出たという話が「ビブリア古書堂」に書いてあった。
自分も第7章はいらんなと読後すぐに感じた。第6章で終えたほうが映画的。
ちなみに「時計じかけのオレンジ」は早くから映画化の話がすすんでミック・ジャガー主演の企画もあったそうだ。
あとバージェス(1917-1993)はちゃちゃっと書いた今作が代表作に思われてるのが不本意だったらしい。

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