西村京太郎「シベリア鉄道殺人事件」を2007年光文社文庫版で読む。
この本は1992年に週刊朝日に連載、1993年に朝日新聞社から単行本、1995年に光文社カッパノベルス、1996年に講談社文庫と朝日文芸文庫と何度も社を変えて出版されてきたもの。なのでたぶん西村京太郎の膨大な作品群の中でも人気作。
こいつはBOで110円できまぐれ購入。実は自分はシベリア鉄道に乗車したことがある。学生時代の友人と富山→ウラジオストク→モスクワと移動しドモジェドヴォ2からハバロフスク経由で新潟へ戻るという旅。なのでシベリア鉄道が舞台の作品には関心がある。
歌舞伎町のホテルで発見された20代白人女性の絞殺死体。ブラジルのパスポートを所持していたのだがどうやら偽造。
遺留品から中堅商社へ聞き込み。だが上層部からの命令でその線の捜査は止められる。この本部長は十津川警部シリーズに毎回出てくるけどすごく嫌なエリート。
なぜか東京警視庁捜査一課の刑事にすぎない十津川が上司からの密命で、胃潰瘍で入院したことにして、外務省のエリートとふたりで冬が始まるシベリアへ。
ウラジオ、ハバロフスク、イルクーツク、クラスノヤルスク、ノボシビルスク、そしてモスクワ。一民間人旅行者としてシベリア横断追跡調査。
途中途中で下車してロシアマフィアやロシア警察、内務省とトラブル。日本政府から特に支援もない。
この商社がソ連崩壊後のロシアから核科学者をイラク、イラン、リビア、北朝鮮などの第三国へ技術流出もさせることに加担してる疑惑。金のためなら世界を不安定にさせてもかまわないとか日本人と思えない。
警視庁のいち刑事がソ連崩壊後のロシア核科学者流出を阻止するとかありえないし荒唐無稽。そんな仕事は公安とCIAがやるべきミッション。
当時のロシアは経済は崩壊し治安が悪化しマフィアが台頭し社会が混乱。エリツィン大統領の人気も急落。
そんな腐敗国家ロシアへ、スマホもない時代なのに日本の刑事が出かけていくとか危険すぎる。ほぼスパイ映画だし謀略サスペンス。日本にそんな人材はいない。
外務省の人がロシア語ができるからなんとかなるけど、ソ連崩壊直後という時代でスマホもケータイもなく、右も左もわからない。未知の土地で、簡単に人を殺すマフィアが相手で、しかもロシア警察から追われ、パスポート取り上げられて留置所にぶち込まれ、どさくさで脱走とか命がけすぎるし無茶すぎる。相手が元KGBの大物とか絶望。
話を聴いたり何かを頼んだりするのに10ドル100ドル札単位で相手に金を渡す必要のある腐敗社会ロシア。その費用って日本国民の税金?
都合のいい展開とか細部には目をつぶれば十分に楽しい2時間映画。ほぼアマルフィ。十津川警部が織田裕二のような質感。
十津川警部はほぼ英語でロシア人たちと意思疎通し状況判断と次の行動を推測し決定。そんな細かいニュアンスまで伝えるとか、相当な英語力があるに違いない。十津川警部、かっこいい。
西村京太郎せんせいが実際に現地を取材したとするなら、連載の前年にソ連8月クーデターがはったはず。激動のロシア現代史。「シベリア鉄道殺人事件」というタイトルは内容とあんまり合ってない。
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