2025年9月6日土曜日

スタンリー・キューブリック「博士の異常な愛情」(1964)

英国時代のスタンリー・キューブリック監督・脚本の映画「博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(1964 コロンビアピクチャーズ)を見る。今年の夏にBSで放送されたので見る。昨年にも放送されたけど放送日を忘れていて録画できなかった。

この映画、学生時代に1回見たことあるけど雰囲気しか覚えていない。当時は何もわからないままにそれほど集中もせずに見た。

この映画が作られた当時、世界はキューバ危機(1962)で核戦争瀬戸際の恐怖を味わった。1964年は東京五輪のあった年。

たぶんジャンル的にブラックコメディ会話劇。一人三役のピーター・セラーズは自分が子どものころはよく映画本や雑誌で映画偉人として名前が挙がることが多かったように記憶してる。この映画はほぼこの怪優のバカを相手にした独り芝居独壇場。

米軍のリッパー将軍から友軍である駐在英国空軍マンドレイク大佐(セラーズ)へ戦争開始と「R作戦」始動の通達電話。核爆弾を搭載したB52はロシアへ2時間で到達できる場所を常に飛行している。
緊張感のない乗組員に暗号が伝わる。R作戦?マジか。現場のパイロットたちは信じないが、確認したところ核戦争開始らしい。
しかし基地では作戦発動ならすでに敵攻撃を受けて地上波ラジオが放送されているはずがないと大佐は将軍に「何かの間違い」を上申。しかしこの米軍将軍は狂ってるらしい。

そしてペンタゴンでの長い長い会議が始まる。出席するアメリカ大統領役もピーター・セラーズだ。
爆撃機はあと25分でソ連のレーダー探査圏に到達する。だが、爆撃機を呼び戻す手段がない。大統領は静かにブチギレ。リッパー将軍を捕らえろ!
しかしタージドソン将軍は威勢のいいことしか言わない。

ソ連大使が最高作戦室に呼び出される。この人がロシア訛英語を話してる。アメリカ人のイメージする典型的な醜いソ連人。
ホットラインで米大統領とディミトリ―とかいうソ連首相の電話会談が開始。ソ連首相が酔っ払っててコミュニケーションがギリギリ。
そしてソ連側は「絶滅装置ドゥームズデイマシーン」(地球破壊爆弾?!)が存在することを通告してくる。攻撃を受けたら自動的に発動。地球は滅ぶ。

空軍基地では米軍と米軍同士の戦闘が開始。カオス展開。
おいマンドレイク、おまえは英国人としてその狂ったアメリカ人をその場で射殺するべきだろ。

そして大統領補佐官の元ナチス・ストレンジラブ博士登場。こいつの見た目が変態。ソ連大使の言う自動で反応して止められない破滅機械なんて本当にあるの?という疑問に答える。
一方現場では職務を忠実に遂行する兵士たち、なんとか阻止しようと悪戦苦闘した英国軍人の妨害する融通の利かないバカアメリカ軍人。イライラするコント。英国人はアメリカ人をこう見てるのかもしれない。英国人から見たアメリカ人、ソ連人、ドイツ人のステロタイプ造形に感心しかしない。

視聴者をほっとさせたのも束の間、最悪のバッドエンド。そのへんの脚本はよくできてる。初めて見たときは長く感じたけど、今回はあっという間に感じた93分だった。

想定以上にシャカリキにがんばるバカを風刺。今現在戦場にいるロシア兵士たちもこんな感じなんだろうと想像。真珠湾攻撃作戦立案者もこんな感じだったのかもしれない。柳条湖も盧溝橋もこんな感じだったのかもしれない。

戦争が起こるときにありあがちな悪意と、連絡系統と通信システム、そして人間の行動の不確実性。キューブリック監督による戦争寓話。
二・二六事件のときの反乱軍将校たちのことも想ったし、「日本のいちばん長い日」で皇居に向かってマシンガンを撃つまでに狂った軍人たちのことも連想。忠実なだけの兵士は害悪。人間性が大切。

人間性が欠如してなければ上官の命令だろうと無辜の民を撃つなんてできないし、原爆を都市に落とすなんてできるはずがない。そもそも大量破壊兵器の存在が間違い。オペレーション設計も間違い。ソ連とロシア人が地球上に存在したことも間違い。

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