映画「ロストケア」をようやく重い腰を上げて見る。原作は葉真中顕の同名小説。
監督は前田哲。脚本は龍居由佳里。音楽は原摩利彦。制作は日活、ドラゴンフライエンタテインメント。配給は東京テアトルで2023年3月に公開。
これ、ぜんぜん見たいと思えなかった。老人介護の現場を描いてるから。人間の尊厳を保つギリギリの現場が介護。しかも痴呆も加わると、それは見ていて楽しいものにはならない。
WOWOWで何度も何度も放送。録画して安心してたらアマプラでも配信されてた。やっと見る気になった。
すらりと背の高い女が老人の孤独死の現場に駆け付ける場面からスタート。赤いマフラーにコートのショートヘアまさみ。
ケアセンター八賀の職員斯波(白髪・松山ケンイチ)ら3人が訪問する家は荒れ果ててる。もう絶望的な痴呆老人と妙に明るい若者たち。これって意思疎通できてんの?
その家の娘が戸田菜穂なのだが、あきらかにいっぱいいっぱい。美人女優なのにこんな家事と育児と介護に疲労困憊な様子で見ててキツイ。
そして長澤まさみ検事。老婆(綾戸智恵)と対面中。この老婆が「なるべく長く刑務所に入れて!」と懇願。もうずっとみんな困惑した顔。福祉と行政の敗北。行き詰まり。この国の美しくない現実。
そういえば綾戸さんもかなり長い間母親を介護してたんじゃなかったか。
猪口(峯村リエ)は「まだ若い娘にとっては母がポックリ逝ってくれてよかったのでは?再婚するにはタイミングよいのでは?」と慰労の居酒屋で軽く疑惑を述べる。
もう爽やかで人のいい介護職松山ケンイチだけが困窮家族たちの希望。長く世話してもらった老婆を亡くした坂井真紀さんから泣きながら感謝される。新人介護職員の加藤菜津さんが清楚で可愛らしい。
しかし、利用者宅でその父親とセンター長である団が死亡しているのが発見される。
わりといろんなことにだらしなかったケアセンター長は利用者の合鍵を小銭といっしょにジャラジャラポケットに持っている。窃盗目的で介護者宅に侵入し、階段から転落死?!介護老人も死んでいる?!
ケアセンターは家宅捜索。
検察の偉い人はセンター長が金品を奪う目的で老人を殺害した線でよろしくと急かしてくる。
しかし長澤まさみ検事と鈴鹿央士事務官が松山ケンイチを現場近くの防犯カメラ映像から容疑者と疑う。
ちょ、まさみ検事、団と斯波が窃盗の共謀って筋書きは飛躍しすぎじゃないか。
頭部を大怪我した斯波「利用者が心配で利用者宅へ赴いた所、団と鉢合わせとなり、口論の末にもみ合い、階段から転落死させてしまった正当防衛」と供述。鉢合わせ現場の会話を録音しておけばよかったのに。
斯波宅の家宅捜索。え、この部屋、なにもない。
まさみ検事は聖書や哲学書しかない本棚に3年間分の介護ノートを見つける。
まさみと鈴鹿はケアセンター八賀での利用者の死亡件数が県内平均よりも多いことに気づく。ダントツに多いじゃん!?
死亡日と時刻のデータに大きな偏り。すべて斯波の勤務日以外だ!
こういう仕事って警察じゃなく検事がするの?!
もう火葬されてるので物証がない。まさみ検事は斯波が盗聴器をしかけたのでは?と斯波を自供へ導く。「24人の老人を殺害した」
ちょ、その盗聴器って家族が仕掛けた可能性は?
しかし、斯波はその盗聴器で坂井真紀の家庭が痴呆老人のせいで酷い事態になってることを把握していた。思っていた以上に地獄…。
いやこれ、まさみ検事よりも松山ケンイチを応援したくなる。松山は自己犠牲の殉教者か。
そして松山の過去の回想。困窮のあまりの痴呆老人父(柄本明)を救済という名の殺害。行政は助けてくれなかった。悲劇の連鎖。柄本さんの演技がリアルすぎてもう途中から正視できなくなる。
まさみ検事のママ(藤田弓子)はとても介護が必要に見えない。まだ若く見えるし元気で陽気。
裁判シーンで「人殺しー!お父ちゃんを返せ!」と絶叫する戸田菜穂。ちょっとまて、斯波が殺さなかったとしてもあなたの美しい思い出の父は帰ってこないのだが。
案の定、この世の地獄映画。日本社会の敗北。行政と福祉の敗北。もう終わりだよこの国。
この国の介護現場の疲弊。現場に司法を投入するべき。警察官の仕事に加えるべき。
坂井真紀「誰にも迷惑かけないで生きていけるひとなんてひとりもいない」という言葉が救い。家族でどうもできなくなったのに、なぜに福祉課の窓口職員は斯波を冷たく追い払ったのか?
人には「見えるものと見えないもの」があるのでなく「見たいものと見たくないもの」がある。その見たくない映画がこれだった。見た自分は自決用の薬を用意しておこうと思った。
まさみはこの時期、社会派な映画を選んでいた。もっと見る人を楽しくさせる映画に出ようよ。
主題歌は森山直太朗「さもありなん」(ユニバーサル ミュージック)
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