三島由紀夫「真夏の死」(新潮文庫)を読む。三島が自選した短編11本を収録した1冊。では順番に読んでいく。
煙草(昭和21年)
少年時代に楽しい美しい思い出は何もないという独白。上級生からタバコをすすめられ…という短編。たぶん平岡公威くんのひ弱だった学習院時代の想い出。
同級生から「ちぇっ、ガチな奴はちがうよ」と言われる箇所があって驚いた。ガチって昭和10年ごろからあった言葉なの?!
春子(昭和22年)
運転手と駆け落ちして戻ってきた叔母の春子(30ぐらい?)とその義理の妹路子と19歳少年の同じ家での暮らしと奇妙な関係。春子と路子の関係を知ったとき自分もびっくらこいた。
サーカス(昭和23年)
サーカス団長の少年少女団員へのサディスティックな扱いが酷い。小説というより詩。
翼(昭和26年)
お互いに相手に翼があると妄想した少年少女。詩を感じた美しい文体。
離宮の松(昭和26年)
1歳の子を背負って浜離宮公園へ行った16歳少女。これは浜離宮公園に行ったことのあるほうがイメージしやすい。
面白かった。これも誰か短編映画化するべき。
クロスワード・パズル(昭和27年)
熱海のホテルのボーイと、客夫妻(?)の謎の婦人とのやりとり。戦後から数年の熱海は新婚カップルだらけ。
真夏の死(昭和27年)
夏の海水浴での海の事故で子ども二人と妹を一度に亡くした夫婦の体験した衝撃、怒り、悲嘆、そして忘却。心情を克明に描く。とても20代の若者の書いた小説とは思われない。
花火(昭和28年)
自分そっくりの男から持ち掛けられたバイトとその顛末。運輸大臣から意味も解らず「御祝儀」をもらってしまった恐怖。これはオチも無く謎が解き明かされないまま。
貴顕(昭和32年)
元華族の画家の友人治英の半生。そして死。これが読んでて一番つまらなかった。日本語は美しいけど。
葡萄パン(昭和38年)
なんだこれは。三島が若者たちに取材して得たイメージ。今現在の人が読んでも当時の流行の若者のことはよくわからない。
雨のなかの噴水(昭和38年)
「女の子を振ってみたい」という思いから一通りのことをやって別れ話を切り出した少年。とめどなく涙を流す少女。少女の最後の反撃の一言が傑作。この短編集で思わず笑ってしまった唯一の短編。
現在の和田倉公園の噴水がこの小説が書かれた当時と同じかは定かでない。ちなみに自分は昔この公園でインタビューを受けてる瀬戸内寂聴さんを見かけたことがある。
以上11篇のなかで一番面白かったのが「雨のなかの噴水」。まったく古さを感じない。誰か5分ぐらいのショートムービーを撮ってほしい。あと「翼」も好き。
たぶん一番の人気作は「真夏の死」だと思う。だが、自分的に一番高評価なのは、川端康成が褒めたことで三島がプロの作家になる決意を固めた「煙草」だった気がする。たぶん川端の少年時代も三島と同じひ弱少年。ふたりは気が合ったんだと。美しい日本語の語彙力において両巨頭。
ちなみに、日向坂46の宮田愛萌も「真夏の死」を読んだと自身のブログで書いている。宮田が一番気に入ったのは「サーカス」だったらしい。
0 件のコメント:
コメントを投稿