コナン・ドイル「シャーロック・ホームズの事件簿」を大久保康雄訳のハヤカワ・ミステリ文庫(1991)で読む。大久保訳なのでたぶん相当に古いものと思われる。
THE CASE-BOOK OF SHERLOCK HOLMES by Sir. Arthur Conan Doyle 1927
1921年から27年にかけてストランド誌に掲載されたものを集めた最後の短編集。これを読むことでシャーロック・ホームズ全作を読み終わることになる。では順番に読んでいく。
高名の依頼人 悪人にたぶらかされ婚約までしてしまった将軍令嬢の目を覚まさせたい。骨董収集家の男爵に接近するべく、ワトソンくんに明朝の磁器を持参させて潜入。悪党男爵から「聖武天皇についてご存じ?」という質問が出て驚いた。
蒼白の兵士 ボーア戦争の戦友に会いたいのだが急に音信不通。家族からは「世界一周に出かけた」など不誠実な回答。屋敷を訪ねてもその父親(大佐)の態度がおかしい。泊めてもらうと夜に死人のように青白い旧友の顔が窓に!ホームズに相談したらすぐに解決。現代人には思いもよらない真相。ワトソン目線でなくホームズ自身の手記形式。
マザリンの宝石(ダイヤモンド) 王冠ダイヤ盗難事件を追うホームズの命が狙われる。やがて悪党伯爵を逆に脅迫して解決。蓄音機がまだ珍しかった時代の話?!
三破風の家 黒人ボクサーからの脅迫。屋敷を家具調度品衣類宝石まるまる買い取りたいと持ち掛けられた夫人。裏に何かの陰謀?最後はホームズが悪女を脅して問題解決。
サセックスの吸血鬼 ワトソンくんの学生時代の友人からの相談。再婚した南米出身の夫人が継子の息子を殴り、実の子である赤ん坊の首に噛みつく。これは一体…。
三人のガリデブ氏 米カンザス州のガリデブ氏の遺した広大な土地は成年男子でガリデブという名前である3人に遺贈される。これは、「赤毛連盟」とほぼ似たプロット。
ソア・ブリッジ 自分は数年前からシャーロック・ホームズ読破にいどんでいるのだが、これだけは子どものころから何となくトリックを知っていた超有名作。
金鉱王の妻が橋の上で頭を撃ち抜かれ死んでいる…。家庭教師の婦人が容疑者になる。ホームズがあざやかに解決し容疑を晴らす。
指紋とか硝煙反応とか旋条痕とか科学捜査のない牧歌的時代の事件。現場を徹底的に捜索とかすれば容易に真相が判明するのでは?それに拳銃をアレするトリックは本当に可能なのか?手に握られていた手紙は風で飛んで行かないのか?今こんな短編を書いたら総ツッコミをくらうに違いない。
這う男 突然狂暴になって周囲を困惑させる老教授の事件。この真相は他のホームズ作品とは浮き上がってる。当時の科学レベルではこんなことが信じられていたのか…という驚き。
ライオンのたてがみ ホームズさんはもうすでにサセックス州の草原の丘の一軒家で隠遁暮らしてる。そこで「ライオンのたてがみ」という言葉を残して青年が不審死。「突破ファイル」的な真相で逆に驚く。
覆面の下宿人 恐ろしい風貌になってしまった婦人の下宿人の体験談と不幸な半生。これも推理小説らしくない。
ショスコム荘 ロバート卿はダービーでショスコム・プリンス号を勝たせないと借金で破滅してしまう。妹のビアトリス(ショスコム荘の女主人)は以前のように馬に興味を示さないし愛犬も宿屋の主人に譲った。そしてロバートは納骨堂で不審な行動。これらのことからホームズは真相を暴く。
隠居した絵具屋 若い妻に若い医師と現金持ち逃げ駆け落ちされた絵具屋の老人からの相談。他の事件で手が離せないホームズはワトソンを派遣。駆け落ちしたその夜の芝居チケットの番号、金庫室のペンキ、などの情報を聴いただけでホームズは真相を暴くための行動に出る。
どの短編も後の探偵小説の原型。「蒼白の兵士」「ソア・ブリッジ」はぜひ読んでおきたい。「ショスコム荘」「隠居した絵具屋」も古典的な犯罪パターン。
これにてシャーロック・ホームズを長編4冊、短篇集5冊のすべてを読んでしまった。もう知らないホームズ譚が残されていないと思うと寂しい。だが、これまで読んだ短編の内容をもう覚えていない。
PS. 「バスカヴィル家の犬」がディーン・フジオカ主演で6月に公開されるのだが、これは現代日本アレンジ版ドラマ「シャーロック」の劇場版。そういうの、自分はあまり興味ない。たとえキャストが全員日本人であっても、まるでビクトリア朝ロンドンのように振舞ってほしい。似合わなくてもモーニングコートにシルクハットでしれっとしていてほしい。
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