亀山郁夫「ロシア・アヴァンギャルド」(1996)という1冊が岩波新書にあるので読んでみた。
ロシア・アヴァンギャルドというと自分はカジミール・マレーヴィチ(1879-1935)、アレクサンドル・ロトチェンコ(1891-1956)ぐらいしか知らない。(あとかろうじてミハイル・ラリオーノフ)。
自分としては絵画美術の方面から関心を持ってこの本を手にとったのだが、ロシア・アヴァンギャルドは詩、文学、演劇、映画、建築、評論、音楽など多岐にわたる。そこ、膨大な人名、機関、組織名の列挙をひたすら目で追うことになって閉口。亀山せんせいの知識量が膨大で感心しかない。レーニン廟のデザインはマレーヴィチの影響?!
日露戦争後の帝政ロシアで発芽。そして革命。戦時共産主義、農業の集団化、第一次五か年計画、社会主義リアリズムという、なんとなくしか知らなかったソ連の歴史をおさらい。
未来派の旗手ヴェリミール・フレーブニコフ(1885-1922)の項を見ていたら、「ヨーロッパ唯一の仏教圏であるカルムイク地方の出身」と書かれていて驚いた。
カルムイクってどこ?カスピ海北西にモンゴル系カルムイク人とロシア人からなるカルムイキア共和国(首都エリスタ)という国があることを初めて知った。
ロシア・アヴァンギャルドは1930年にウラジーミル・マヤコフスキーが自殺して急速に終幕。マレーヴィチの死(1935)、フィローノフの死(1941)。
演出家メイエルホリドは39年にレニングラードのアパートで逮捕。翌年にルビャンカの内務省監獄で銃殺。このへんのことはショスタコーヴィチ関連で知ってた。邪知暴虐スターリンと追従おべっか野獣ベリヤのせい。
社会主義リアリズムに順応できなかった芸術家は西側に亡命(カンディンスキー、シャガールなど)するか、もしくはラーゲリ送り。(酷い)
ウズベク、カザフは革命初期からアヴァンギャルドたちの拠点。カラカルパクスタンのヌクスにはレニングラードのロシア美術館に劣らないアヴァンギャルド絵画が集まっているって知らなかった。
アヴァンギャルド絵画がタブーを説かれた契機が1979年パリ・ポンピドゥーセンターでの「パリ・モスクワ」展。そして80年にはニューヨーク・グッゲンハイム美術館、81年にはモスクワ・プーシキン美術館でも開催。
そしてソ連はペレストロイカとグラスノスチが始まる。88年にマレーヴィチ展、フィローノフ展、89年にカンディンスキー展。ロシア・アヴァンギャルドの復権。そしてソ連崩壊。
自分、長年クラシックを聴いてきたので、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチの初期がアヴァンギャルドなのは知っていたのだが、スクリャービンもロシア・アヴァンギャルドに含まれるって知らなかったw
あと自分、モソーロフ(1900-1973)をずっと「モロゾフ」だと思ってた。「鉄工場」という曲は有名だけど聴いたことがなかった。今はすぐに動画サイトなんかで聴けてよい。(なんちゅう曲やとは思ったが、今聴くとそれほど新鮮さもない)
モソロフは30年代になるとキルギスやトルクメンの民謡収集に向かったという。それも初めて知った。
ロシアにおける十二音技法の作曲家ロスラヴェツ(1881-1944)も名前は知ってたけど曲を聴いたことがなかった。この人も30年代になるとウズベクで民謡収集。
この本は、ロシア・アヴァンギャルドはスターリンによって抹殺されたのではなく、「なしうることはほぼ完遂した」とみるほうが現実に即した見方だと締めくくる。
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