2021年8月22日日曜日

松本清張「火神被殺」(1973)

松本清張「火神被殺」を文春文庫版(1980)で読む。1970~72年にオール読物に掲載された5本の短編を収録。

「火神被殺」
島根県の山中から女性のものとみられるバラバラ白骨死体が発見される。付近の旅館に宿泊した男女がいないか捜索すると偽名を書いたのちに修正した名前が。
古事記とヒッタイト、コーランの共通点の自説を唱える変わり者青年を追ううちに刑事がたどりついた真相。

清張先生がこの中編を書いたころはまだ出雲の荒神谷遺跡や加茂岩倉遺跡はまだ発掘されていない。古代史を研究する人々は出雲神話に疑問を持っていた時代。なので今読むと「?」という箇所も多い。

「奇妙な被告」
高利貸し老人が殴り殺され手提げ金庫の証書が燃やされた事件。逮捕されたものの無罪を勝ち取った中華料理屋は、以前は法律関係の古書店に勤めていた。国選弁護を担当した弁護士は戦前の英国の判事が書いた本に同じケースを発見してしまう。

「葡萄唐草文様の刺繍」
中年夫妻がブリュッセルで購入したテーブルクロスが殺人事件の重大な証拠になってしまう予想外な話。え、そこ?!っていう着地の仕方でちょっと驚いた。

「神の里事件」
播磨の山奥にある淫祠邪教の神道系新興宗教豊道教の神宝とする古鏡を見に行ったルポライターが「頭に槍が刺さる」神罰を受けて死亡。教団の偉い人も山中で目を槍で突かれて死んでいる…という短編。

これ、小野不由美「黒祠の島」や三津田信三みたいな雰囲気で面白かった。清張らしくない本格っぽくもある。ぶっちゃけ傑作。ドラマ化希望。

「恩誼の紐」
貧しかった清張の幼少時の想い出も交えたフィクション。幼少時に犯罪を犯した男は大人になって再び犯罪を犯す…という暗い嫌な話。

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