角川文庫(平成18年初版)横溝正史「喘ぎ泣く死美人」という本を読む。自分、今までたくさん横溝正史を読んできたのに、このタイトルをまったく聞いたことがなかった。
これまで単行本未収録だった初期作品を集めて2000年に角川書店から初刊行されたものの文庫化。
一昨年10月に100円でそこに売られているのを確保して積んでおいたものをようやく読む気になった。
河獺(大正11年)
「新青年」に「恐ろしき四月馬鹿」でデビューした翌年発表の短編。古老が著者に語って聞かせる形式。池に住む河獺(かわうそ)に魅入られ水死体となって浮かんだ美しい村の娘という怪談。やがて娘の継母も嵐の夜に殺され、今度は山番の20歳になる娘も池で死体となって発見されたのだが、その真相は…という、新聞三面記事のような顛末。
艶書御用心(大正15年)
「恋がしたい」と考える勤め人青年に持ち込まれた人探しの話。その真相は…、わりと原題でもよくあるようなマーケティングに騙される小噺。
素敵なステッキの話(昭和2年)
気難しい作家先生たちの家に行くのが嫌だなあという編集者横溝の本音が垣間見える。これは雑文エッセイ的短編小説。
夜読むべからず(昭和3年)
これはロンドンのクラブで探検家が話すという形式。西アフリカで発見したバラバラ人骨。そのそばにあったノートに書かれていた恐怖怪奇談。
喘ぎ泣く死美人(昭和4年)
ダートムアに屋敷を買った夫妻の怪談話。何も印象に残らなかったw
憑かれた女(昭和8年)ショートショートストーリー集(昭和3年~22年)はヤング横溝による都会派でライトな読物。とくに深い内容があるわけでもなく感想もない。
絵馬(昭和21年)はいかにも横溝らしい後の有名作の原型要素が感じられる重要な短編。岡山疎開時代の横溝が垣間見える。あまり岡山弁を強調していない。これはドラマにしてほしい。だが、あの男が殺人まで犯す動機がよくイメージできなかった。
灯台岩の死体(大正10年)和歌山が舞台。灯台付近で見知らぬ男の死体が発見され神官が逮捕された事件の真相。初期横溝。
甲蟲の指輪(昭和6年)夜汽車で一緒になった老婆(といっても50代!w)が目の前でチョコを食べたら青酸カリが入っていて死亡。大船まで一緒だった青年はどこへ?これも都会派でオシャレなヤング横溝。
ラスト3作と「河獺」「艶書御用心」あたりは横溝が好きという人なら読んでおきたい短編。とくに「絵馬」は読んでおきたい。
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