2020年3月18日水曜日

筒井康隆「ビアンカ・オーバースタディ」(2012)

筒井康隆「ビアンカ・オーバースタディ」(2012 星海社FICTIONS)という本があるので読んでみる。こんな本の存在を実物を見るまでまったく知らなかった。

筒井康隆(1934-)は今年で86歳(!)という日本SF作家の超大物で巨匠で重鎮。だが、自分はこの人を「時をかける少女」の作者ということぐらいしか知らない。高1のころ「七瀬ふたたび」(新潮文庫)ぐらいしか読んだことがない。

オビに「筒井康隆、ライトノベル始めました。」とある。裏には「文学界の巨人・筒井康隆の最新作は本気のライトノベル!」「筒井康隆Xいとうのいぢ 文学史上の一大事件を読撃せよ。」とある。おお、それは読んでみなくては。

表紙イラストだとヒロインは試験管を持っている。きっと天才少女科学者のドタバタ冒険なんだろうとなんとなくイメージしてた。だが、それは大間違いだった!

各章かならず「わたしは知っている。わたしがこの高校でいちばん美しい、いちばん綺麗な女の子だということを。」で始まる。1ページ半毎回ほぼ同じ文章が続く。
ヒロイン北町ビアンカはたぶんハーフ美少女。ブレザータイプの制服に短いスカート。男子たちみんなが自分を見ていることを知っている。

裏表紙には「アブナイ生物学の実験研究にのめりこむ、21世紀の時をかける少女」的なあらすじの説明があるのだが、この本の核心を巧妙に避けている。
なんとこの小説は、「精子」と「人工授精」と人類の未来をテーマにした壮大な生命科学SFだった!

自分、最初のページをめくって軽くめまいw 第一章「哀しみのスペルマ」、第二章「喜びのスペルマ」、第三章「怒りのスペルマ」、いったいこれは…?!
ヒロインは生物研究部に所属しウニの精子と卵子が受精する様子などを顕微鏡で観察する女の子なのだが、やがてそれにも飽きてしまう。そして、人間の精子が見たい…。

研究部室の前でいつも本を読んでいたカワイイと思っていた1年生男子に声をかけて「精子」を搾取する狂った展開は、ほぼまるでジャパニーズAVかアメリカンポルノ。少女の目から即物的に描かれる。自らの卵子も取り出し受精させる。
「時をかける少女」でしか筒井康隆を知らない両親が、間違ってこの本を13歳ぐらいの娘に買い与えてしまうような事故が日本のどこかで起こっていないことを祈りたいw

興味がエスカレートするヒロインは自分の卵子を後輩の精子で受精させて観察。もう、かなりイッちゃってるヒロイン。
だが、この箇所を過ぎれば奇才筒井康隆らしい展開になっていく。

やがてヒロインは違う個体の精子同士を一緒にしたらどうなるのか?と考え、ふたりしかいない生物研究部のセンパイにも声をかける。
実は生物部のセンパイは未来人。鋭いヒロインはそれを見抜いていた。精子が小さく活動が弱弱しい。それに現代人がまだ知らない生物学の知識を持っているから。(この本はちゃんと生物学研究の技術なんかの知識も盛り込む)

センパイはそれをアッサリ認めるw だが、いつの時代から来たのかは言えないという。
地球温暖化のために日本の大都市は水没し高地で暮らしている。石油は枯渇し地球温暖化は止まるのだが耕地を失い食糧難になる。そこで家畜食糧を巨大化する必要があるのだが、研究中に巨大カマキリが逃げ出し繁殖。人間を襲うようになっていた。

で、目を付けたのが昆虫を捕食するアフリカツメガエル。だがヒロインはアフリカツメガエルの卵に人間の精子を受精させたキメラを作り出す。ただ面白そうだからという理由だけで。(このヒロインは従兄が大学生で生物学研究に必要な最新機材と知識を持っている)

成長の早い人面巨大カエルが誕生してしまい高校はパニックw タイムトラベルで事態の収拾を図り、そして未来へ旅をしてカマキリと戦うカエルの陣頭指揮をとる…というトンデモSFラノベ。とても70代後半の老巨匠が書く本とは思えなかった。ひさしぶりにヤバいものを読んだしまった。

自分はラノベというものをそれほど読んだことも無く、ラノベの定義すらもよく知らないのだが、やっぱりさすがだと感心もした。
登場人物たちの会話がフザケすぎていなくてむしろ固く真面目で自分には合っていた。正直面白かったと言わざるを得ない。
ただ、間違っても中学生にSFライトノベルとしてオススメしてはいけない。ほぼほぼ有害図書だった。

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