2019年9月4日水曜日

江戸川乱歩「目羅博士」(昭和6年)

江戸川乱歩「暗黒星」を1994年角川ホラー文庫版で読む。
「暗黒星」「幽鬼の塔」という長編2作と、短編3本を収録した一冊。

今回のお目当てはこれに収録された短編なので、そっちを先に読んだ。

お勢登場(大衆文芸 大正15年7月)
これは昨年にBSプレミアムで放送された満島ひかり主演による乱歩短編集で放送されるまで存在を知らなかった22P短編。

妻が老父のお見舞いに行くと称してちょくちょく外出。書生と浮気していると知りながら何も言えない肺病で病弱な夫が主人公。子どもたちと家でかくれんぼして遊んでる最中に、長持ちの中に閉じ込められてしまい…というホラー。
それほどおどろおどろしくなく淡々としてる新聞三面記事的な短編。まあまあ面白い。タイトルが良い。

目羅博士(文芸倶楽部増刊号 昭和6年4月)
この短編を読みたくてこの本を手に取った。28P短編。

締め切りに追われ逃げるように上野動物園にに出かけた江戸川先生。猿舎の前でルンペン風の若者に話しかけられる。「猿は人間の動きをマネする習性がある」
不忍池を眺めながら石に腰かけて、青年から不思議な体験談を聴く。丸の内のビルの一室で起こった連続3件の縊死自殺事件。

隠れた名作かもしれない。リアルにそんなことは起こりえないだろうと思うのだが、幻想ホラーとして雰囲気が良い。
映像化を期待したい。そんなバカな?!というコントになるだろうと思う。

木馬は廻る(探偵趣味 大正15年10月)
17P短編。回転木馬でラッパを吹くことが仕事で、ヒステリイな妻と3人の子どもを持ちお金もない初老の男の悲哀。これは文芸作品という感じ。オチもない。大正から昭和初期は50で老人扱いで哀しい。

暗黒星(講談倶楽部 昭和14年1月~12月連載)
169P長編。これ、たぶん小学生のときポプラ社の少年探偵団シリーズで読んだような気もするのだが内容は完全に忘れている。

震災から取り残されたように空き地の残る麻布に、ひっそりたたずむ明治の煉瓦洋館・伊志田邸。
恐ろしい夢を見たという長男一郎から素人探偵明智小五郎への相談。
やがて夫人が刺殺、一郎の妹も射殺、そして邸内で見ず知らずの青年の死体まで…。

たいへん古典的。トリックといってもせいぜい変装と抜け穴。現代人からすれば講談やシャーロック・ホームズ時代の大衆娯楽探偵小説レベル。物足りない。

幽鬼の塔(日の出 昭和14年4月~15年3月)
177P長編。これは今回初めて読んだ。
主人公は素人探偵河津三郎28歳。よせばいいのに自分から仕事でもない事件に首を突っ込む。こいつが好奇心と悪戯心の塊で呆れる。

たまたま橋の上から見かけた工員風の男の秘密を嗅ぎつけて、鞄をすり替える悪戯。すると男は上野の五重塔で首つり自殺。
鞄の中身を取り返そうと頭のイカレた美人とその父に殺されかける。さらに頭のイカレた画家に監禁される。だがそれでも命からがら秘密に迫る。

これ、読んでる最中はとてもワクワクできて楽しかった。だが、これって着地点あるの?

呪いホラーですらもなく、何か犯罪の臭いをかぎ取って追いかけたら、悲劇的事件の顛末を知ったというヒューマンドラマ探偵小説だった。ちょっと失望。

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