2019年6月27日木曜日

三島由紀夫「命売ります」(昭和43年)

三島由紀夫「命売ります」がここ数年の間にとてもブレイクしたらしく、多くの人が話題にしている面白い小説らしいので読んでみる。

現在は山本容子装画の1998年ちくま文庫版が増版を重ねていて入手が難しくない。文庫以外だと新潮社の三島由紀夫全集にたよるしかない。

この小説は昭和43年になんと週刊プレイボーイ誌に21回連載されたもの。三島の通俗的大衆娯楽小説。昨年1月にはBSジャパンで連続ドラマにもなっていた。
……羽仁男は、目をさまして、まわりがひどく明るいので、天国にいるのかと思った。しかし後頭部にきつい頭痛が残っている。天国で頭痛がするわけはあるまい。
ある日突然、新聞の活字がゴキブリに見えだしたという男が睡眠薬自殺を図り、やがて病院で目を覚ます。そして男は自分の命を売ろうと新聞広告を出す。

男は「ライフ・フォア・セイル社」の札を掲げる。次々と仕事が持ち込まれる。これがハードボイルド探偵小説のような展開。
お互いにそっぽを向いた乳房の女、昆虫図鑑を売る女、吸血鬼の母親、大使館のスパイ、そして自宅の離れを貸す女…。

主人公の男がテンション低くてスカしてる。作者名を伏せて読まされたなら、誰でも村上春樹の初期作品?と思うような予測不能荒唐無稽ファンタジー展開。

男はやがて組織に追われる。「死にたくない」と、飯能駅前から青梅の山中を逃げ回る。そんなエンターテインメント作品。
ちなみに、乃木坂の高山一実もこの本を読んだことがあるらしい。文体で「トラペジウム」に影響を与えたかもしれない。

「三国人の妾」という言葉が出てきて驚いた。聞いた話だと三国人って戦後すぐの昭和20年代にしか使われていない言葉だと思っていた。
すくなくともこの本によれば、昭和40年代で、おそらく日本語を話す東アジア系外国人という意味で使われている。

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