2019年5月28日火曜日

横溝正史「夜の黒豹」(昭和38)

横溝正史「夜の黒豹」を読む。1997年春陽文庫版で読む。「推理ストーリー」昭和38年3月号掲載「青蜥蜴」を改稿したもの。

これもやっぱり角川文庫版が手に入りやすいのだが、あの杉本イラスト表紙「夜の黒豹」はまるで官能小説のそれ。女性の全裸死体。乳房の上にトカゲという、とても電車内で取り出して読めないヤバすぎジャケット。春陽もそれほど大差ないが。

路上で客をとる街娼が犠牲になる。渋谷と高輪、同じ手口の二つの事件。犯人は被害者の胸に蜥蜴の絵を描いていく。高輪署の刑事と金田一さんが黒いコートに黒メガネの男の行方を追う。
情交を伴う犯行のため、とにかくゲスい描写。こういう事件だと刑事さんたちは直接そういった内容を話し合う。15歳の女の子の性関係も洗い出す。

これ、「吸血蛾」みたいなテイストで怪物ジャック・ザ・リパーを追いかける大捕り物みたいな展開と、大人向け娯楽作にありがちなエロを予想していたらまったく違っていた。

猟奇殺人鬼が犯人と思いきや、意外に社会派。膨大な登場人物が登場して頭が追い付かなくなる。こいつ、誰だっけ?何の役回りだっけ?

終盤にさしかかると、いつのまにか犯人が分かってしまい、追い詰められる犯人側目線で描かれるようになってる!どうしてそんな構成にした?!
これがまるで松本清張サスペンスのよう。計画が破たんし追い詰められ焦る犯人側にうっかり同情。

これはかなり読み応えがあった。「病院坂の首縊りの家」並みの大作。この時期の横溝正史も野心を持って精力的な作品を書いていたって知った。

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