新田次郎「火の島」の新潮文庫(昭和51年)版をずっと捜していた。平成3年第23刷をやっと見つけた。100円でゲット。
今回、「火の島」を10年ぶりぐらいに読み返した。前回読んだときは全集から1冊選んで読んだ。今回、文庫で読めて嬉しい。
火山島である鳥島の気象観測所に台風の夜、漁船が難破し死体があがる場面から始まる。明治35年に鳥島が噴火したときも島に死体が流れ着いた直後に噴火し島民125人全員が死亡した歴史を観測所員の房野は思い浮かべる。
所員たちがみんな思ってることを言わない。死の恐怖と相互不信の強いストレスでギリギリの精神状態。とにかくちょっとした物言いでイライラしまくってる。
総員退避か?所長は何も決断せず何も言わないことを決め込む。
東京気象庁本庁からの無神経な電報に現地スタッフ怒り心頭。さらに神津島から急きょ鳥島へ向かわされた下っ端役人の火山の専門家。みんな死の恐怖に怯え寝不足のまま淡々と仕事をこなす。組織って嫌だよ。
新田次郎の筆致に感心しかない。心理描写がスリリングだし読んでる側もそこにある火山から強い圧迫を感じる。
鳥島での地震発生と気象観測所の撤退は昭和40年11月13日から16日まで実際にあったことのようだ。
鳥島は今も無人島。グーグルで写真を見ると観測所が思いのほか高い場所にある。今も廃墟としてそこにある。
この本を読むと、東京電力と総理官邸と福島のことや、南スーダンPKOもこんな感じだったんじゃないか?と想像。
地震とか火山とか自然災害のときに人命以外の別論理を持ち出すな!無駄なストレスを溜めるな!という中編。オススメ。
「毛髪湿度計」(昭和31年)「ガラスと水銀」(昭和32年)もたぶん以前に読んだことがあったかと思うのだが、内容をまるで覚えていなかった。今読んでもあまりピンとこない短編。水銀中毒は怖い。
今回初めて「毛髪湿度計」と「転倒寒暖計」をググって調べてみた。ちょっとほしくなった。
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